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長い冬を越えた蕾(つぼみ)たちが綺麗な花をつけ始めた野原。
日の光を浴びながら、1人の少女がむくりと起き上がった。
どうやら優しい日差しの中、しばしの休息をとっていたらしい。この季節には、誰もがしたくなる行動だろう。
……しかし、その少女はどう見ても『普通』ではなかった。
少女は全身真っ黒だ。腰までもある長い黒髪に黒い瞳、そして芽吹きの季節には似合わない黒い布をまとっている。
そして、少女は自分の背丈を超えるほど巨大な鎌を持っていた。その鋭利な刃が不気味に光る。
少女は大きく伸びをし、隣に丸まっていた "ある生物" に向かって話しかけた。
「ツキ、 そろそろ行こう。いつまでも寝ているわけにはいかないんだから」
ツキと呼ばれたものも『普通』ではなかった。
一見はただの黒猫。しかし、普通の猫にはないものを持っている。黒い羽根と3つの尻尾だ。
その謎の黒猫は眠そうに目を少しだけ開け、不機嫌な声を漏らした。
「キズナはいいじゃん。もう死んでるから寝なくても平気なんだもん。でも、ツキは寝ないと疲れるのー」
「……もう。早く霊を探しに行かないと。現世に留まっている霊は、たくさんいるんだからね?」
キズナはそう言うと、立ち上がって街を見下ろした。
その野原は、賑わう街から少し離れた丘にあるので、街の様子が見渡せるのだ。
――この中に、どれだけ多くの霊が留まっているんだろう。
そう思った直後、後ろから「ぎゃっ!」という声が聞こえ、キズナは急いで振り返った。
そこには、小さな女の子の姿があった。おそらく……7、8歳程度。
肘まで届きそうな長い髪をリボンで縛り、二つぐくりにしている。少し色素が薄く、茶色がかった髪が太陽の光で輝いて見えた。
そして、その少女の両手にはツキがしっかりと挟まれていたのだ。
「猫さん、見っけ!」
少女がツキを覗き込みながら、嬉しそうに声を張り上げた。
そんな少女の突然の登場に驚きながら、キズナがこう尋ねる。
「あなたは……?」
「相川 癒芽(あいかわ ゆめ)! 8歳です!」
明るく自己紹介する少女とは対照的に、キズナは怪訝な顔で目を細める。
この少女は、ツキもキズナも視えている。それに、実体のない透けた体と……右手に絡まった未練の鎖。
「あなた、もう死んでるのよね?」
「うん!」
癒芽は明るく答えた。
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