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ツキが、近づいてくる霊に気付けなかったのも無理はない。先程までぐっすり眠っていたのだから。
しかし、こんなに明るい霊も珍しい。
キズナが悶々と考えを巡らす一方、癒芽はツキを見て不思議そうに首を傾げた。
「あれ? 猫さん、尻尾が3つある。これ、絡まらない?」
「猫じゃないもん! ツキは、"魂の仕分け人"のパートナーだもん!」
癒芽の手から逃れようともがきながら、ツキが怒鳴った。そんなやりとりに、キズナはふっと笑う。
「もとは猫らしいけどね。ツキ達は、長生きした黒猫が死神様に力を与えられて創られたものだから」
キズナは、癒芽に笑顔を向けながら話を続けた。
「パートナーはね、仕分け人が死神様から授けてもらうの。ツキの尻尾は、私の仕事に大事な役割を果たしてるのよ」
「そうだよ! この尻尾が霊を感知して、この尻尾が霊の情報を感知して、この尻尾が天への道を示してくれるんだよ!」
ツキが3つの尻尾を順番に振りながら自慢げに言った。しかし、ある単語を聞いた途端に癒芽の顔色が急変する。
「……死神? お姉ちゃん、死神さんのお友達?」
癒芽の手が驚きで緩まった瞬間、ツキがキズナの肩の上に避難した。
「癒芽、絵本で見たことある。死神さんは怖い人!そのお友達も、きっと怖い人!癒芽のこと、そのおっきい鎌で捕まえに来たんでしょ?」
「違うわ。死神様も私たちも、生きてる人間や普通の霊には何もしない。私の仕事は迷える霊の未練を断つこと」
しかし、癒芽はキズナの言葉を理解し切れていないようだ。頭の上に?マークが多数飛んでいる。
キズナが易しい言葉で説明すると、癒芽はようやく安堵の表情を見せた。
「おいで、私があなたの鎖を断ち切る手助けをしてあげる」
キズナは優しく手を差し延べたが、癒芽は首を横に振っただけだった。
「まだ行けないの。癒芽には、やらなきゃいけないことがあるから」
「やらなきゃいけないこと?」
「うん。ごめんね」
癒芽は申し訳なさそうにキズナを見上げると、くるりと後ろを向いて歩き出した。
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