第一章 愛歌<アイウタ>

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少女の姿は、あまりにも現実とかけ離れていた。真っ黒のローブに身を包み、鋭い刃を持つ大鎌を携えているのだ。 その姿はまるで…… 「死神……?」 思わず、頭をよぎった言葉が口に出た。 漆黒の布をまとい、大鎌を振るう……死を司る不吉な神の存在は、誰でも知っているだろう。 しかし、少女は目を伏せて首を横に振る。 「違うわ。私は、単なる死者。ただ、"未練切り"の役目を与えられているだけ。死を統率する死神様からね」 ーー未練、切り……? 首を傾げる弘樹に、少女は笑みを向ける。そして、ジャングルジムから飛び降り、弘樹の目の前に着地した。 「はじめまして、松永 弘樹(まつなが ひろき)さん。私は、死神様の使い……魂の仕分人(しわけびと)。名は、キズナ」 自らを紹介し、ふわりと微笑んでみせる。 「私はね、あなたように死を受け入れられない魂の未練を断ち切るためにいるの」 「"あなたのように"…….?」 「まだわからない?あなた、死んだのよ」 ーー死んだ?俺が?……そんなばかな。 弘樹は力の無い笑いを浮かべ、後ずさった。この少女は狂っている。 そんな弘樹の気持ちを読み取ったのか、キズナが儚げな表情で口を開く。 「思い出してみて。あなたは、ここに来る前に何をしてた?どうやってこの公園に辿り着いたの?」 そこまで言われて、弘樹の頭の中に凄惨な事故現場の風景が蘇った。バイクごと飛ばされた、あの恐ろしい記憶が。 ーー俺は交差点で倒れていたはず。なのに……どうして、この公園に? 弘樹は額に手を当て、考えを巡らせていく。 と、その時。自身の手が白く透き通っていることに気づいた。そして、その手首には…… 「鎖?」 右手首に絡まった小さな鎖。半透明のそれは、地面へと繋がっている。 「未練の鎖。それが、あなたをこの世に留まらせてる原因よ」 「冗談やめろ!外せよ!」 右手を乱暴に差し出す。ジャラリと無機質な音を立て、鎖が揺れた。 キズナは少し考えるようにそれを見つめると、手にしていた大鎌を構えた。 弘樹が声を出す間も無く、鎌の刃が鎖へ振り下ろされる。が、その瞬間……バチッという痛々しい音が響き、キズナの鎌が跳ね返された。 「やっぱりね。まだ、私にも外せない。あなたが天に向かうことに納得しないと、この鎖は切れないの」
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