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綾華の喉から赤い血が一筋流れたとき、ドアをノックする音が聞こえた。
その音に飛び上がり、綾華は咄嗟にナイフを布団の下に隠す。
開いた扉の先にいた人物を見て、弘樹は思わず叫んだ。
「キズナ!?」
確かに、そこにはキズナが立っていた。しかし、いつもの姿と違う。
黒いニットワンピースにブーツを履き、髪を後ろに高い位置で束ねている。いつも持ち歩いている大鎌はどこにもなく、隣にツキもいない。
そして、何より驚いたのは……綾華がキズナを見つめているのだ。
――綾華にキズナが視えている?
「あなたは?」
綾華のその問いかけに、キズナは笑顔で答えた。
「はじめまして。私は弘樹さんの友人です。あなたが綾華さん、ですね?」
「えぇ……」
綾華は、不思議そうに目を細めながら頷いた。
「弘樹さんのこと、大変残念です」
その言葉で弘樹の死を思い起こされたのか、綾華の頬に涙が流れる。
「相当落ち込んでおられると思って訪ねたんです。もしもの事があったら、あなたを頼むと弘樹さんに言われていたものですから」
「弘樹が、あなたに?」
「弘樹さんは亡くなりました。想像も出来ないほどの悲しみでしょう。でも、自ら命を絶つことだけは考えないで。自分も周りも苦しむだけ」
キズナはそこで一息置いた。気のせいだろうか、弘樹にはキズナの目が少し潤んでいるように見えた。
「逃げ場のない苦しみの中に行きたくなければ……おやめなさい。弘樹さんが、そんなことを望んでいると思いますか?」
「……辛いの」
綾華はそう呟き、再び目に涙を溜めた。
「ずっと、ずっと一緒にいられると思ってた。来年も再来年もその先もずっと! なのに、こんなに早くいなくなっちゃうなんて」
そう話す綾華を見て、弘樹は耐えきれずに涙を流した。
「弘樹に会いたい、声が聞きたいの。こんなに好きなのに……どうして会えないの? 」
綾華は両手で顔を覆い、泣き崩れた。そんな綾華にゆっくりと歩み寄り、キズナは綾華の肩を優しく抱く。
「あなたは1人じゃない。このお腹の中は誰がいる? この子は生きようとしてるわ、あなたと一緒に」
綾華は、はっとして自分のお腹を見つめた。そう、この体はもう綾華1人のものではない。
「生きることから逃げないで。私が言えるのは、それだけです」
そう言ってキズナは病室を後にした。声を上げて泣いている綾華を残して。
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