最終章 悔歌<クヤミウタ>

20/22
前へ
/75ページ
次へ
燃えるような夕日が沈み、代わりに現れたのは大きな月。 その仄かな光が、高層ビルの屋上にいるキズナとツキを優しく照らす。 「では、お前は天に還ることを選択するのだな?」 深く低い声の問いに、キズナが頷いた。 「……どうやら、お前を天に送り届けたい者がいるらしい」 死神がそう言い、静かに目を閉じた。そして、再び目を開けると…… 「ツキが行く!」 いつもの甲高い声が聞こえた。 「死神サマがツキの体使っても、ツキの意識は残ってる。だから、死神サマとキズナの話、全部聞いてた」 「……そうだったの? 黙っててごめんね。紘乃のことも」 申し訳なさそうに謝るキズナに向かって、ツキは尻尾を振りながら力強い声を上げる。 「キズナが心配かけたくないって思ってたの、ツキ知ってる!キズナをサポートしてきたのはツキだよ?キズナの性格、誰よりもわかってるんだから!」 「ありがとう」 キズナは微笑みながら涙を流し、頬を濡らした。 「でも、私が天に還った後……ツキはどうなるの?」 キズナがふと疑問に思い、問いを投げかける。 「ツキは仕分け人のパートナー!キズナが天に還ったら、新しい仕分け人につく。それがツキの役目!」 ツキは誇らしげにそう言うと、キズナの肩に乗り、キズナの頬に自分の顔を押し当てた。 「ねぇ、キズナ。ツキ……キズナのこと絶対忘れないよ」 ツキが小さな瞳から小粒の涙をぽたぽた落としながら呟く。 「ありがとう、ツキ。大好きだよ」 ツキを抱き寄せ、涙を流しながらキズナが言った。 しばらく涙を流した後、ツキは急に飛び立ち、元気に声を張り上げる。 「ツキに任せて!ツキが最後までキズナを見送る!」 キズナはにこっと笑いながら頷くと、今まで誘ってきた霊達と同じように小さな光に変化してゆく。 その光がツキと共に飛び立ったのを、ビルの影に隠れていたソウマが微笑みながら見送っていた。 「じゃあな、キズナ」 そう呟くと、ソウマはソラと共に夜の闇に消えていった。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

98人が本棚に入れています
本棚に追加