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白く塗られた剥きだしのコンクリートに、揺らめく淡いブルーの間接照明が幾何学的な模様をうつしだす。 カウンターの横に設置されている少し大きめのスピーカーからは、静かに流れるジャズ。 それから、 「それは、大変でしたね」 目鼻立ちがハッキリとしていて、右目の下の黒子が印象的なマスター。 此処は繁華街の片隅。周囲のビルより比較的新しく、地下一階に目立つことなくひっそりと営業している隠れ家的な小さなBar。 その名は、『shadow』。 たまたま失恋した夜に見つけたこのBarに、時々通っては柔らかな口調のマスターと会話するのが密かな楽しみでもあり、ストレス発散の一つでもあり……。 秋も深まった夜長に一人、今日も結城瑞穂は足を運んでいた。 理由は簡単。男絡みで嫉妬され、残業を押し付けられたのだ。それも、根も葉も無い噂話のせいで。
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