76人が本棚に入れています
本棚に追加
順番として、市井は私のことを先に片桐に打診し、その後で私に話を持ってきたということだ。
今まで気が付かなかった事実を知らされ、疑念を感じると共に急激に不安が募った。
週の頭の月曜日。
道路はそれほど混んでおらず、20分と掛からずにマンションの前に着いた。
飛び降りる様にして助手席から降りた私を見て、片桐が頬を動かした。
何がおかしいのだ。
車の背後に回り、片桐の開けたハッチの中に、鈍く光るアタッシュケースが有った。
「部屋はどこだ」
「自分で運びますから」
こんなところを同じ販売所の人間に見られたくはない。
片桐が鼻を鳴らした。
「持ってみろ」
取っ手を掴んで持ち上げると、中でゴトリと音がした。
ズッシリと重いが、私に持てない重さではない。
びっこを引くような恰好で歩き出した私の背後で片桐が言った。
「頼んだぞ」
口調はともかく、片桐の口から聞く初めての頼み事だった。
最初のコメントを投稿しよう!