第1章の続き

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 1年前にここへ来た時、誰もがそうであるように一つの区域を任された。  前任者があまり熱心に拡張をしていなかったこともあるが、背が高く髪を金髪に染めたこの俺が、情けない声を出して「成績が足りないんです」と言って見せると、特に年配の主婦からは面白いように「シバリ」のカードが上がった。  何年も先の契約をねだると、中には躊躇する客もいるのだが、その分景品の量を積むことで判子を押させた。  そして新人としては異例の好成績を上げたことが所長の目に止まり、幹部に抜擢されることとなったのだった。  拾ってくれた所長に感謝し、やみくもに営業を頑張ったといえば聞こえはいいが、俺には金を必要とする他の目標もあった。  もちろん所長には感謝しているし、それなりに頑張ろうと思っていたのには違いない。  結果オーライなのだが、少々過大評価されてしまった感は否めない。  ちなみに契約のお礼として客に渡す景品は、洗剤などの生活用品で、それを総じて拡材と呼ぶ。  そして販売所の裏手にある倉庫から拡材を持ち出す際、何らチェックを受けない。  何故だか分からないが、持ち出し自由なのだ。  販売所としてはそれぞれの良心にでも任せているつもりなのだろうか。  当然、専業達は自身もその拡材を拝借し生活しているし、渋い客には好きなだけ与えてでも、日銭欲しさにカードを上げているのが現状なのだが。  それでも商売が成り立つのだから不思議だ。
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