第1章の続き

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 運転席から男が、助手席からは小柄な女が飛び降りるようにして現れた。  2人が車の後部に回り、その姿が街灯に照らされた。  女は小林だった。  男は一目でヤクザだと分かった。  二言三言言葉を交わすと、小林が重そうなアタッシュケースを抱えてマンションの中に入った。  男はその後姿を視線で追い、そして荒々しく車を発進させると夜の街に消えていった。  1つ間を開けた隣の部屋でドアの閉まる音がし、ベランダ越しに部屋の明かりが点くのが分かった。  ヤクザの女が何故新聞折り込みを住み込みでやるのだ?  あのアタッシュケースは一体何だ?  小林を知る者ならば当然の疑問が頭に湧くと同時に、男に対する嫉妬心が芽生え、それがジワリと胸を焦がした。  視線を100メートル先のマンションに戻すと、立て替えている内の1軒に明かりが灯っていた。
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