第1章の続き

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 インターフォンを押すと、直ぐに女の不機嫌な声で応答が有った。  毎朝新聞の集金だと伝えると、不機嫌な声に更に拍車が掛かったようだった。  4月の幹部昇格と共にこの区域の集金を担当したばかりなので、この客の顔はまだ知らなかった。  わざとではないかと勘ぐりたくなるほどにゆったりと時間を掛けてから、チェーンを付けたままの玄関ドアが細く開けられた。  ショートカットで30代のどこかであろう女の顔は、普通よりも高い位置にあった。  「こんばんは。先月分と合わせて7,850円になります」  「ちょっと今何時だと思ってんの?」  眉間にシワを寄せた女が言った。  新聞屋という人種を嫌っているのか、何か嫌なことでもあってその八つ当たりをされているのかは分からないが、敵対心剥き出しなのだけは確かだ。  「10時半くらいですかね」  平然と言ってやった。
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