第1章の続き

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 「非常識じゃない。もっと早い時間に来てよ」  「そうしたいですけど、いつも留守だったので……」  言い終わらないうちに女がドアを閉めようとしたので、咄嗟につま先を入れてそれを制した。  「ちょっと待って下さいよ。俺、先月分立て替えてんですよ」  少し口調を強めて言うと、女は一瞬怯んだ様子を見せて言った。  「じゃぁ先月分だけ、取り敢えず払うわよ」  背の高いやせ細った女の手が、渋々財布から千円札を4枚出した。  財布の中に数枚の万札が確認できた。  今月分はいつ払って貰えるのか、と尋ねながらつり銭を差し出した。  それには答えず、それをひったくるように受取った女が、同時にドアを閉めようとした。  俺の右手の甲が一瞬挟まった恰好になったが、女は詫びることもなくドアを閉めて施錠した。  「ってえな!クソババァ!」  思わずドアを蹴飛ばしていた。
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