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ジリリリリリ……と、部屋中に響き渡る目覚まし時計の音。その音で、布団に包まっていた少女が目を開けた。
――もう、朝?
手を伸ばしてアラームを止め、寝ぼけ眼のままのっそりと体を起こした。
「ねっむい……」
少女が未だ夢の中を漂っていると、突然部屋の扉が大きな音を立てて開く。
「蒼依、学校遅れるよ!もう中2なんだから、しゃんとしなさい!」
そう言いながら入ってきたのは、彼女の母親だ。勢い良くカーテンを開け、いそいそと1階へ降りていってしまった。
制服に着替え、のんびりと階段を降りてゆく。その足が1階に降り立った時、洗濯物を運ぶ母と鉢合わせした。
「本当、朝に弱い子ねぇ。ほら、早く顔洗って!ちゃんとお父さんに挨拶しなさいよ」
呆れの目を向けて、風呂場へと消えていく母。せわしないなぁ……なんて思いながら、蒼依はリビングへ向かう。
入口脇の棚にある小さな写真立て。そこには、笑顔の男性が写っていた。
「お父さん、おはよう」
徳永蒼依には、父がいない。1年前に事故で亡くなったのだ。それからは、母の遥香と2人暮らしだ。
洗面所で顔を洗い、ストレートな黒髪に櫛を通す。鎖骨まで伸びた髪を見て、そろそろ切ろうかな……と心の中で呟いた。
身だしなみを整えてダイニングに入ると、焼けたパンのいい香りが鼻を刺激してきた。なんとも幸せな感覚。その傍ら、すでに洗濯を終えた遥香がいそいそと朝食を並べている。
「蒼依、今日塾よね?お母さん夜勤だから、晩御飯食べたらきちんと片付けといてね」
近くの総合病院で看護師をしている遥香。日勤、夜勤、準夜勤の繰り返しが彼女の勤務体系だ。
蒼依は「はぁい」と気のない返事を返し、朝食を食べ進めていく。
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