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「じゃあ、行ってきまーす」
すべての準備を終えたのち、肩に学生鞄をかけて玄関に向かう。靴を履き、いざ出発しようとした時……
「蒼依、ちょっと待ちなさい」
その声に振り返ると、遥香が真剣な面持ちで立っていた。なんだか嫌な予感がする、そんなことを思いながら蒼依は次の言葉を待つ。
「この前の実力テストの結果、どうだったの?まだ聞いてないわよね?」
「……えーと。今から学校なんだけど。それ、今じゃないとダメ?」
作り笑いを浮かべ、少し上目遣いで母を見るが……
「ダメ。お母さん、今日は夜勤だって言ったでしょ?もし部屋にあるなら、場所教えてくれたら見るけど」
有無を言わせない調子で、遥香が詰め寄る。蒼依は大きくため息をつき、「この鞄にいれたままだから」と言いながら成績表を取り出した。
「なにこれ!また下がってるじゃない!」
成績表を目にした遥香の第一声に、蒼依は眉間にしわを寄せた。
ーー始まった。朝っぱらから勘弁してよ。
恒例のお説教。これがあるとわかっていたから、敢えて成績表を渡さなかったのに。
遥香は成績にとても厳しい。少しでも順位が下がろうものなら、目を釣り上げて叱りつけてくる。彼女は、全て蒼依の将来の為と話すが……蒼依にとってはいい迷惑だ。
「平均がちょっと下がっただけじゃん。ほら、英語は上がってるし」
「そういう問題じゃないの!」
ぴしゃりと言われ、蒼依は反論を諦めた。こうなったら、黙ってやり過ごすのが一番だ。しかし……
「みっともないわねぇ。あれだけ塾に通わせてるのに、なんで下がるのよ。気が抜けてるんじゃないの?」
額を押さえ、落胆の目で成績表を見つめている遥香。そのあからさまな態度に、蒼依は激しい怒りを覚えた。
「わかったよ、次頑張ればいいんでしょ!次頑張れば!」
蒼依は大声をあげ、乱暴に玄関の扉を開けて外へと出て行く。
「待ちなさい!お母さんは蒼依の為に……」
勢い良く扉を閉め、遥香の言葉を遮った。
ーー口を開けば説教ばっかり。私だって頑張ってるのに。
強い苛立ちと共に、学校へ続く道を歩いていく。すると、突然後ろから頭を叩かれた。
「蒼依、おっはよー!」
「……恭、痛いんだけど」
「テンション低!気持ちいい朝が台無しじゃんよ」
この嫌に明るい松下恭は、小さい頃からの男友達……いわゆる幼なじみというやつだ。家が近所で同い年、さらに母親同士の仲もよく、ずっと一緒に過ごしてきた。
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