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授業が終わって帰る準備をしていると、後ろから肩を叩かれた。美砂だ。
「蒼依ー、今から買い物行こうよ。美砂、行きたい店あるんだ!」
「あ、ごめん。今日は……」
「塾なんだ」と、そう言おうと思った時、今朝の母の顔が浮かんだ。蒼依の成績表に顔を歪めている、あの顔が。
「……いいよ、行こ行こ!」
蒼依は、にっこり笑って頷いた。
「やった!じゃあ、美砂も鞄取ってくる!」
美砂が嬉しそうに自分の席に戻っていく傍ら、2人の会話を聞いていた恭が小首をかしげた。
「あれ? 今日金曜だよな。蒼依、塾じゃなかったっけ?」
その質問に、蒼依がバツの悪そうに苦笑いをする。
「たまにはいいじゃん。 勉強ばっかじゃ息詰まるし。気分転換だよ」
「うーわ、サボりかよ。おばさんに言い付けるぞー?」
「お母さん、どうせ仕事だもん。今日夜勤だし、恭が黙っててくれたらバレないよ」
蒼依は「チクるなよ」という牽制を込めた目で恭を威圧し、美砂と共に教室を出ていった。
――ずっと頑張ってきたんだもん。ちょっとぐらい、バチあたらないでしょ。
成績でしか自分を判断してくれない母への、些細な反抗。蒼依はチクチクと心を刺す罪悪感を覚えながらも、必死で自分を正当化する。
しかし、そんな罪悪感も美砂と買い物を楽しんでいるうちに次第に薄れ、日が落ちた頃には欠片も残っていなかった。
存分にショッピングを堪能した2人。購入した物を両手に下げていた美砂が、ご満悦の表情で口を開いた。
「 晩御飯どうする? 何か食べよっか?」
「あー……家にご飯あるから、そっち食べなきゃ。そろそろ帰らなきゃまずいかな」
スマホで時間を確認しながら蒼依が言った。時間は塾の終了時間に迫ってきている。
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