ある発明

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その日、私は早めに仕事を切り上げ、夕刻にエス博士の研究所を訪ねた。 何故、この時間だったかもわからなかったが…… 初めて訪ねるエス博士の研究所は、私が思うよりも立派な建物だった。 土地だけでも500坪はあろうかという、それなりの豪邸だった。 街の郊外といっても、このあたりは田畑の多い田舎で、下水道などの整備も不十分な土地だったが… まあ、研究所というものは概ね、街中ではなくこのような自然溢れる所にあるイメージだから、あまり気にはならなかった。 建物を見上げながら、私はエス博士が羨ましくなった。 仕事もせずに親の金で好きなことをやっているのだ。 顔を見たら皮肉の一つも言ってやろうか…… この位の意趣返しは許されるだろう。 玄関の呼び鈴を鳴らすと、中からエス博士が迎えてくれた。 エスの顔など完全に忘れていて卒業アルバムを見てきたが、こんな奴居たっけ?という感じたった。 出迎えたエス博士は卒業アルバムの面影を残しつつ、まだ垢抜けていない感じの中年男だった。 「ようこそ、来てくれて嬉しいよ。 久しぶりだね。 初めて僕の研究の成果を披露する人は君が相応しいと思ってね……」 「こちらこそ、お招きに預かり恐縮の至りです。 確か、何かの研究が無事上手くいったらしいね。 大学から研究してるらしいから、もう二十年ぐらいか…… こんなに長い間、研究を続けてきたのだから、人類史に残る大発見なんだろう。 きっと来年のノーベル賞は君のものだろうな。 授賞式には是非とも私を同行させてもらいたいものだね。」 「いや、この研究はまだまだ未完成なんだ。 実用化の面でも解決しなければならない問題もあるし、改良すべき点はいくらでもある。 だけど、現時点でもとりあえず使っても問題は無いから、一足先に限られた人にだけ公表しようと思ったんだ。」 何故私なのだろう? 別にエス博士とそんなに親しくはなかったハズだが……?
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