ある発明

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「ところで、君はこの発明は特許申請したのかい?」 「いや、まだだ。 というより、僕はこの発明を特許申請するつもりは無い。 僕はお金の為に研究しているのではない。 この発明は世界中の人々を救う為のものだ。 僕は、人類の為にこの研究に取り組んでいる。 特許を取得して独占すべきものではないんだ。」 「素晴らしい考えだね。 ならば賛同者も沢山居るだろうし、優秀な助手も居るんだろうな。 紹介してくれないか?」 「いや、この研究所は僕一人だけなんだよ。 昔、僕の研究について論文にまとめて発表したこともあったが、賛同者は誰もいなかったんだ。 アルバイトとして手伝ってくれる人は居るけど、研究者として助手になってくれる人は結局、現れなかった。」 私はおそらく、白い目でエス博士を見ていただろう。 人の話しを聞く態度としては甚だ失礼かもしれないが、胡散臭さは拭えない。 「そんなに素晴らしい発明なら、何故賛同者も助手も現れないんだ? おかしいじゃないか?」 「まあ、そのあたりはしょうがないかもしれない。 あまりに先進的な考えはいつの時代も始めは受け入れられないものだからね。 だから僕自身が、この発明の重要性や素晴らしさを証明しなければならないんだよ。」 恥も外聞もなく大言壮語を語る人間は尊敬に値しない、というのが、私が今までの人生で悟った真理だ。 そういう人間は信用できない。 早々に立ち去った方が、いいかもしれないな…… と考えはじめた矢先、エス博士は私の肩に手を掛け、研究者内に招き入れた。 私は完全に逃げ出すタイミングを逸してしまった。
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