ある発明

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研究者内はもっとごちゃごちゃしていると思っていたが、意外と整理整頓されていた。 どういう性格かは知らないがエス博士は几帳面な面もあるのかもしれない。 入り組んだ廊下の先にある、たぶん応接間らしき部屋に私を招き入れた。 掃除はしているが、ほとんど使っていないのだろう、調度品はまるで新品同様だった。 誰も座ったことがないのかもしれない革張りのソファに座り、エス博士は更にしゃべりだした。 「この研究が完璧に成功した暁には、きっと多くの人々がその恩恵にあやかることになるだろうと僕は確信しているんだよ。 人間だけでなく、いずれ世界そのものを、大きく変えるだろう。」 「ところで、君の最大の理解者であろう、父親はこの研究をどう評価してるんだい?」 「父もこの研究にはあまり興味が無いらしい。 もちろん兄たちもね。 まあ、父も兄も仕事が忙しいだろうから、邪魔したり、家族の経歴に傷が付くようなことをしない限り、放任することにしているみたいだね。 けど、この研究が成功しさえすれば、きっと兄たちも僕の理解者になってくれるハズだよ。」 「しかし、わからないな……」 「何がだい?」 「それならば、先に家族に研究成果を披露すべきじゃないか?」 「いや、一番は君じゃないといけないんだ。 けじめとしてね。」 私は余計訳が分からなくなった。 どう考えても、エスと仲良くした覚えも、何もない。 もしかしたら、エス博士は何か勘違いをしているのかもしれないな……
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