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「待たせてしまって、すまないね。
まあ、一杯やってくれ。」
そう言うと、エス博士は大きなフラスコのようなデキャンタに入ったワインをグラスに注ぎ込んで、私の前に差し出した。
「あいにく、ビールが無くてね…
気に入っていただけるといいんだけど…」
「いや、ワインは好きだよ」
「では、乾杯といこうか」
「乾杯」
私は、ワインを一口飲んで驚いた。
タダで振る舞うワインだから、大したものではないと思っていたが、私が今までに飲んだどのワインよりもおいしかった。
結婚式の披露宴の時でもこんな上質なワインは飲めなかった。
「素晴らしいワインだね。
こんなの飲んだことないよ。
いったい、何という銘柄なんだい?」
「えっと……
何だったっけなあ…
多分、一昨日あたりに飲んだやつだったと思うけど……
久しぶりに兄たちと食事したんだよな……
シャンベルダンだったかな?」
「……」
エス博士は普段からこんないいワインを飲んでいるのか……
エス博士には悪気はないのだろうが、私は改めてエス博士が羨ましくなった。
「このワインは、まさに僕の発明の賜物といってもいい。
もちろんこの料理もね」
エス博士は何を言ってるのか…?
おそらく、全自動調理器の類だろう。
色々な料理を作りだすなら確かに素晴らしい発明ではある。
しかし、調理済みのパック食品が発達した現在なら、それほど役にはたたないのではないか?
それにしても、最初に披露するのが、何故私である必要があったのだろう?
いくら考えても、さっぱり分からなかった。
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