第3話 別れと出会い

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 と、急に足下がすくわれた。  手をつく暇もなく、派手二に地面に転がる。  「ちょ、ちょっと大丈夫!」  「イタタ……」  鼻と、むきだしの膝がジンジンと痛む。  くすくす、と笑い声がした。  「どうしたの?」  たかちゃんがの慌てた声がする。  顔を上げると、微かに見覚えのある女の子の集団が、すれ違って笑っていた。  「あははは……失敗、失敗」  「なに、何もないところでコケテ……」  はっ、と顔色を変えて、たかちゃんが通り過ぎていった女の子達を見据えた。  わたしは、彼女の腕をとる。  「いや、なんでもないから!」  「でも、――あいつら!」  「いつものことだから……」  わたしは静かに微笑む。  もう一度、今度は悲壮に、たかちゃんの表情が曇る。  傷はたいしたことはなかったけど、服が汚れてしまった。  転がった帽子をはたき、胸に抱く。  「あぁ、久しぶりに失敗したな……人目につくとこでわらってるんじゃなかったね」  「……ずるいじゃない」  涙を目の端にためて、たかちゃんが俯いている。  「ちょ、ちょっと!」  「なによあなた……なに笑ってるの?」  「ごめんね」  ハンカチで彼女の頬を拭う。  涙は、目元でふくと赤くなるから。  「わたしのせいで人の嫌なところみちゃったね」  ぐずぐずと、感情を隠すことなく彼女は泣く。  泣きながらも、彼女の目は痛いほどの純粋さでわたしを見つめていた。  「女の子なんでしょ? だったらもっとわがまま言いなさいよ! 甘えれば良いじゃない! 何年せんぱいと一緒にいるのよ!」  「ちょ、ちょっと……」  あまりにも人目を気にしない声に、わたわたと手を振ってしまう。  たかちゃんはその手を払う。  「ずるいよ……」  「そんな美人で、せんぱいと楽しく絵が描けて、私の持ってない物みんな持ってるくせに……。私はあなたになりたいのに、なんでそんなに悲しそうに笑うのよ……」  「……」  うん。  そうだね……。  ごめんね……。  思いは、声にしないと伝わらない。  本当は抱きしめてあげたかったけど、それも我慢する。  「楽しかったけど、ここでお別れ。わたしと歩いてると、変な噂が立っちゃうから」  「い……いいじゃない、それくらい……」  「だめ。ごめん。わたしのためにも。ね?」  ハンカチをたかちゃんの手にのせて、頭をなでる。
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