第3話 別れと出会い

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 「本当はみんなやさしいから。だから、怒っちゃ駄目だよ? たかちゃんには笑顔が似合ってるから」  そっ、とわたしは後ろに下がった。  彼女は鼻をすすって顔を上げる。  「……噂と違うわね」  「え?」  「氷室の魔女はもっと酷いヤツだって……」  「……」  彼女はわたしのために泣いている。  だからね……。  だから、わたしはがんばれるの。  「ねぇ、貴恵ちゃん」  「? なによ?」  彼女は呼び名の変化にとまどっている。  わたしはにっこり微笑んだ。  「もし……もしもよ。わたしがいなくなったら、直也くんのことお願いね」  「え?」  「それじゃあ」  元気よく手をふって、膝が少し痛かったけど走った。  わたしは彼女と違う道を進んだ。    「あいかわらず遠いのよね……」  わたしは、さすがに額に浮かんだ汗を手で拭った。  村の西側は無闇に広い。  自転車に乗ればいいのだが、いかんせん、あの文明の利器とは相性がよくない。  西狐とてんぷらくらい良くないだろう。  長い階段を、手すりによりかかりながら登り切り、賽銭箱の前で涼しい風に身をまかせる。  地面からは、うっすらと、お線香のように陽炎が立ち上がっている。  また、気温が上がったのかも知れない。  まだ8月にもなってないのだ。  「はぁ……宿題どうしよ」  7月の終わりと、8月半ばの登校日と、8月の最後の日だけそんなことを考える。  どのみち、登校日は昼過ぎに目を覚ましてあったことに気付くのだが……。  「まっ、いっか」  ありきたりな結論に達する。  水場で膝を洗い、昨日の鍋を回収してわたしは背伸びをした。  鍋に代わりに、花火を1セット置いておく。  直也くんとやろうと思ったのだけれど、似合いすぎるから止めた。  思い出にはしたくなかった。    どこに行ったのかしら。  せっかく、温かいにもので驚かせようと思ったのに、当の直也くんが家にいなかった。  彼のの行動半径を考えると、探す場所はそう多くない。  「草原かな……」  わたしは目を細めて呟く。  とぼとぼ、と地面を見ながら、時折スキップしながらあぜ道を歩いていく。    「ここだと思ったんだけど……」  わたしは目を細めて呟く。  今はひまわりの面影のない草原。  どこまでも視界が通ってしまい、少し物寂しい緑の丘。    
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