第3話 別れと出会い

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 強い海風を受けながら、わたしはゆっくりと歩を進めた。  あの時はどんな風が吹いていたのか。  どんな匂いがしていたのか。  かつて面影はない。  「覚えてないなぁ……」  ふと、なだらかな丘の上に立ったところで、白いキャンバスが目にとまった。  足取りが軽く、世界の色が変わる。  「そう――」  と、直也くんは椅子に寄りかかって寝ていた。  温かい下草に足を伸ばして、幸せそうに目を閉じている。  (死んでるみたい)  あまりにも穏やかな顔に微笑む。  「……かわいい♪」  ひとの寝顔は無条件に可愛い。  どんな人でも、寝ている時だけは印象が異なる。  いつもブスッとしているのに、さらさらと髪がなびいていて、彼も子供っぽく見えた。  「よいしょ」  起こさないように、ちょこんと隣に座る。  「いいよね……」  ちょっと辺りを見渡して、ひとがいないのを確認する。  ドキドキ、と本当に恥ずかしかった。  そっと唇を重ねる。  微かに濡れていて、柔らかくて、淡い。  髪をなでると、ムズムズと眉を寄せる。  「あははは。幸せすぎて壊れちゃいそう。 ふぅ……」  たしかに気持ち良いよね。  良い天気。  風が止むことなく、うららかな午後の日差しはやさしい。  「君は、ここでいつも泣いてたの?」  答えはないけてど、多分、そう。  わたし達はきっと、似たもの同士なんだよ。  なんだか眠くなってきた。  彼の側にいるだけで安心する。  そっ、と胸の上に頭をのせて横たわった。  (あったかい……生きてる)  ゆっくりとしたペースで鼓動を感じる。  そっと頬に手を添えて、とても幸せで、涙がでそうになった。  そういえば、何度か昼寝をしていて悪戯された気がする。  「いたずら、って何かHだね……」  一人苦笑いする。  顔をあげて、彼の唇を見つめる。  「わらしって、変な子かな……」  世間一般は知らなかった、頭で考えていることはかなり普通じゃない気がした。  でも、すごくドキドキする……。  顔を上げて、もう一度キスをした。  深く淡くやさしく、柔らかい唇を甘噛みしていると、うっすらと王子様が目を覚ました。  「……」  彼はわたしの髪をなでて、自分から身体を起こしてキスを交わした。  映画のようなときめきに、わたしの胸は、はちきれそうなくらい幸せだった。    
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