第3話 別れと出会い

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 くすくす、と小さな笑い声がする。  「可愛い」  「もうぅ、君って子は!」  腰に手を当てて頬を膨らませると、彼は口元を歪めながら、数歩先にかける。  さすがにそれをおいかけるほど甘くはなかった。  ・  ・  ・  ・  ・  わたしは眩しい太陽を見上げた。  ……夕日の海辺だったらやってたかも知れない。    「ねぇ、恥ずかしいよ~」  「自分だって乗り気なのに何言ってるんです」  「だって……何度やっても慣れなくて……」  「そんなこと口では言ってても、準備万端って感じじゃないですか」  「やだっ! そんなこと言わないでよ~」  「……」  「……」  「前もこんなパターンやりませんでした」  「そんな気がする。でも君はやってなかったよ」  「……バカップルって言葉知ってます先輩?」  「天然記念物?」  薄く開いた目で、広い空を眺める。  パイナップルの仲間が手榴弾だろうと、天然記念物だろうと、生もの国宝だろうと、空の青さには関係ない。  「絵、完成しそう?」  向かい風が強いので、キャンバスの向こうに大きく声をかける。  「……どうかな。後ちょっとだと思います」  「そう」  「でも、なんかワンポイント足りないんですよね」  ひょっこりと、キャンバスから顔をだして、直也くんがわたしを睨む。  瞳の険しさは、どこかで見た既視感がある。  どこまでだろう……?  「話かけていいよね?」  「え、ええ……」  「うん。でも、完成して絵を見たいというか、自分が描かれていると思うと見たくないと言うか」  「先輩、足、どうしたんです?」  彼が顔をひっこめながら言う。  膝小僧に視線を落とすと、血は止まっているが、すり傷が赤黒く汚れている。  「心配ないよ。転んだだけ」   嘘はついていない。  そう、と小さな声が聞こえた。  悟られたかとも思うが、彼の思考がそこまで悲観的だとも思えない。  鈍すぎず、それでいてさ賢すぎるわけでもないのが、彼のやさしさである。  口では遠ざけようとしていても、干渉して欲しいときに干渉してくれて、それでいてこちらの防御幕を破ることのない力加減を知っている。  ちょうど肩もみのようなものだ。  「……血って、どうして赤いんでしょう」  「え? 血?」  聞こえなかったわけではないが、わたしは繰り返した。  
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