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くすくす、と小さな笑い声がする。
「可愛い」
「もうぅ、君って子は!」
腰に手を当てて頬を膨らませると、彼は口元を歪めながら、数歩先にかける。
さすがにそれをおいかけるほど甘くはなかった。
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わたしは眩しい太陽を見上げた。
……夕日の海辺だったらやってたかも知れない。
「ねぇ、恥ずかしいよ~」
「自分だって乗り気なのに何言ってるんです」
「だって……何度やっても慣れなくて……」
「そんなこと口では言ってても、準備万端って感じじゃないですか」
「やだっ! そんなこと言わないでよ~」
「……」
「……」
「前もこんなパターンやりませんでした」
「そんな気がする。でも君はやってなかったよ」
「……バカップルって言葉知ってます先輩?」
「天然記念物?」
薄く開いた目で、広い空を眺める。
パイナップルの仲間が手榴弾だろうと、天然記念物だろうと、生もの国宝だろうと、空の青さには関係ない。
「絵、完成しそう?」
向かい風が強いので、キャンバスの向こうに大きく声をかける。
「……どうかな。後ちょっとだと思います」
「そう」
「でも、なんかワンポイント足りないんですよね」
ひょっこりと、キャンバスから顔をだして、直也くんがわたしを睨む。
瞳の険しさは、どこかで見た既視感がある。
どこまでだろう……?
「話かけていいよね?」
「え、ええ……」
「うん。でも、完成して絵を見たいというか、自分が描かれていると思うと見たくないと言うか」
「先輩、足、どうしたんです?」
彼が顔をひっこめながら言う。
膝小僧に視線を落とすと、血は止まっているが、すり傷が赤黒く汚れている。
「心配ないよ。転んだだけ」
嘘はついていない。
そう、と小さな声が聞こえた。
悟られたかとも思うが、彼の思考がそこまで悲観的だとも思えない。
鈍すぎず、それでいてさ賢すぎるわけでもないのが、彼のやさしさである。
口では遠ざけようとしていても、干渉して欲しいときに干渉してくれて、それでいてこちらの防御幕を破ることのない力加減を知っている。
ちょうど肩もみのようなものだ。
「……血って、どうして赤いんでしょう」
「え? 血?」
聞こえなかったわけではないが、わたしは繰り返した。
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