0人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
『へぇ、今ちょうど、わたしも血のこと考えてたの♪』
――そう言おうと思ったのだが、どんな思考でそこに辿り着いたかのつっこみをうけると、かなり危険だった。
肩をもむと血行が良くなる、などと、本当にどうでもいいことを考えていたために、そのババくさいイメージを知られたくはなかった。
そのそも、若い2人も会話としてはどうか。
「血はどうして赤いんですかね」
「えっと、ちょっと待って。どこかで読んだ記憶が……確かロビンなんとか……あれ?」
ロビン、ロビン……。
指をこめかみに当てる。
おてんこモードに突入してしまっている頭脳が、しきりに覆面レスラーの名前を訴える。
「ヘモグロビン」
「あっ! そうそう、それが赤いん――」
はた、と笑顔が凍る。
あの男だ。
思考のどこかが叫んでいる。
血を連想するまでの彼の思考をトレースする。
今、彼の頭に浮かんでいるモノは、あの男の絵ではないのか?
どこかで見た、あの目の険しさ――。
それは最近、あの男がわたしを見つめる瞳と似ていたのだ。
「? 先輩?」
「あ、あははは。ううん。なんでもない」
わたしは声だけで笑った。
強い風が吹いている。
雲はすごい速さで海の彼方へと消えていく。
鼓動が痛い。
目の奥がジンジンとする。
心配しなくても、もう、あのひまわり畑はないのに……。
「そういえば――」
微妙な気配を察したのか、彼は話題を変える。
「また、話していいかって聞きましたね」
「え、そうだっけ?」
胸を押さえて笑う。
こんなに近いのに、やけに彼が遠く感じる。
「そうだね……」
その距離は、わたしの心が生んでいる。
信用してない?
そんなことはないはずだ。
そんな自分の考えに、涙がでそうなくらい彼を愛している。
『女の子なんでしょ? だったらもっとわがまま言いなさいよ! 甘えれば良いじゃない! 何年せんぱいと一緒にいるのよ!』
ほんとだね、たかちゃん……。
どうして今まで我慢してきたんだろう。
精一杯背伸びしたって、わたしは彼と並べない。
むしろ、つま先で立つんだから、余計にバランスが悪くて彼を心配させる。
「8年前――」
わたしは深呼吸して、目を閉じた。
鼓動が収まると、今度は深い静寂が訪れる。
最初のコメントを投稿しよう!