第3話 別れと出会い

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 『へぇ、今ちょうど、わたしも血のこと考えてたの♪』  ――そう言おうと思ったのだが、どんな思考でそこに辿り着いたかのつっこみをうけると、かなり危険だった。  肩をもむと血行が良くなる、などと、本当にどうでもいいことを考えていたために、そのババくさいイメージを知られたくはなかった。  そのそも、若い2人も会話としてはどうか。  「血はどうして赤いんですかね」  「えっと、ちょっと待って。どこかで読んだ記憶が……確かロビンなんとか……あれ?」  ロビン、ロビン……。  指をこめかみに当てる。  おてんこモードに突入してしまっている頭脳が、しきりに覆面レスラーの名前を訴える。  「ヘモグロビン」  「あっ! そうそう、それが赤いん――」  はた、と笑顔が凍る。  あの男だ。  思考のどこかが叫んでいる。  血を連想するまでの彼の思考をトレースする。  今、彼の頭に浮かんでいるモノは、あの男の絵ではないのか?  どこかで見た、あの目の険しさ――。  それは最近、あの男がわたしを見つめる瞳と似ていたのだ。  「? 先輩?」  「あ、あははは。ううん。なんでもない」  わたしは声だけで笑った。  強い風が吹いている。  雲はすごい速さで海の彼方へと消えていく。  鼓動が痛い。  目の奥がジンジンとする。  心配しなくても、もう、あのひまわり畑はないのに……。  「そういえば――」  微妙な気配を察したのか、彼は話題を変える。  「また、話していいかって聞きましたね」  「え、そうだっけ?」  胸を押さえて笑う。  こんなに近いのに、やけに彼が遠く感じる。  「そうだね……」  その距離は、わたしの心が生んでいる。  信用してない?  そんなことはないはずだ。  そんな自分の考えに、涙がでそうなくらい彼を愛している。  『女の子なんでしょ? だったらもっとわがまま言いなさいよ! 甘えれば良いじゃない! 何年せんぱいと一緒にいるのよ!』  ほんとだね、たかちゃん……。  どうして今まで我慢してきたんだろう。  精一杯背伸びしたって、わたしは彼と並べない。  むしろ、つま先で立つんだから、余計にバランスが悪くて彼を心配させる。    「8年前――」  わたしは深呼吸して、目を閉じた。  鼓動が収まると、今度は深い静寂が訪れる。   
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