第3話 別れと出会い

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 「わたしが絵を描いてる時に、とても好きな人がいなくなったの。大好きだった人が……」  目を開けると、直也くんがわたしを見つめていた。  深い深い紺碧の瞳。  わたしはその不安げな顔に笑いかけた。  「ずっと話しかけていれば、その人の異変に気づけたかもしれなかった――」    『お母さん、ちょっと疲れたから、横になってもいいかな……』    「それでなくても長くはなかったのだろうけど、あの時、わたしのわがままさえなけてばな――そう、何度も思った」  今でも思っている。  沈黙が怖かった。  誰も返事をしてくれない恐怖。  いじめられるよりも、無視される方が何倍も痛かった。  遠足の班決めで、いつもわたしが一人残る。  先生がどこかの班に入れてやれと言うと、必ず教室は静まった。  そういう時も、わたしはあのひまわり畑の絵を思いだしていた。  クラスメート達の顔が、お母さんを苦しめて生まれたひまわりに見えた。  「だからつい、人の絵を描いたり描かれたりしてると心配になるの」  でも、精一杯、楽しげに笑う。  わたしは笑っているしかなかったのだ。  苦しい。  それでも、お母さんを見殺しにしたわたしが、この世でしなければならないっことは、泣くことよりも、誰よりも笑っていることだった。  「馬鹿にみたいだよね……わたし」  小さな笑い声がした。  遥か遠く、世界の果てで生まれた海風は、丘の隙間をぬって小さな音を立てる。  それは、女の子の歌声のようにも聞こえる。  セイレーンが笑っているのかも知れない。  気が付くと、直也くんが立ち上がっていた。  わたしと同じように音のする方向に顔を向け、じっとそちらを睨み付けている。  彼の耳には、はっきりと歌声が聞こえているのかも知れない。  「大丈夫……わたしは平気……ずっとこうしてきたんだから」  わたしは、その言葉で思考を止めた。  「……大丈夫」  直也くんが、とても小さく呟く。  独り言だったのかも知れない。  彼はこちらを見て、強い意志の籠る眼差しでわたしに言った。  「僕は死にません。絶対に。それと――」    「あなたも殺させない」  「……」  あ。  はは。  「あははは……な、なに言ってるの君は?」  彼は無言でわたしを見ている。  その時――、  強い強い風が吹いた――。  「っ、帽子……!」  
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