第3話 別れと出会い

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 自分はきれい好きであると自負しているが、彼の几帳面さと頭の回転速度には舌を巻く。  舌を巻くといく表現を、わたしは短い生涯の中で、その時はじめて使えた。  実際のところ、以前彼にも指摘されたが、2人の頭の回転速度は同じくらいだと思っている。  わたしが拡散型なのに対して、彼は指向性を持っていることが大きな違いであろう。  掃除や、部屋の整頓にかかる時間は、思考のスピードと比例する。  彼の――そういえば結局一度も訪れたことのない――部屋は、空間まで把握して整頓されているのだろう。  そんなことを、考える。  わたしは話が聞きたくないのか?  多分、自己防衛であろう。  テスト前に、部屋の片づけをはじめる行為を同じだ。  好きだから嫌いだなんて、そんな子供みたいなこと……。  ずっと沈黙している。  不自然な間が空いてしまっている。  なにか返事をしなければと思うが、上手い言葉が見つからない。  反論するにしても、肯定するにしても、どんな答えでも、わたしはわたしが嫌いになりそうだった。  思考が散漫だ。  頭と顔が熱くて、熱をもったみたいに全身に汗が流れている。  わたしはふらつく足取りを感じ、必死に地面を歩いていることをイメージしながら、帽子を求めた。  「先生に教えてもらったあの遊び、覚えてます?」  「えっ?」  「ほら、お絵描きかくれんぼ」  「あぁ……うん」  わたしは久しぶりに笑った。  忘れていた、いつもの顔の重さを取り戻す。  直也くんは宙に絵を描く仕草をする。  「この村のどこかの風景画を描いてきて、その場所で相手を待つんです」  「うん……」  色々な思い出がよみがえる。  絵を描いてそこで会おうね……そんな、他愛のない遊びなのに、すごく興奮した。  絵が上手ければすぐに見つけてもらえるから、わたしは一生懸命絵の練習をした。  直也くんをすぐ見つけたくて、いつも村の風景を見て回っていた。  彼と出会えたときの、その笑顔が大好きだった。  恋をしてると感じたのもその頃……。  「同じ物を見ていても、高さや角度が違うだけで別の場所に見えるって……面白かった」  「面白かったですけど、僕なんて、ひどい時は朝から晩まで待ってたんですから」  直也くんは苦々しく笑う。  あの時の……。  わたしは、彼を見つけた時の顔を思いだして失笑した。  
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