第3話 別れと出会い

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 『うぅ……すん……ひっく……』  泣いている。  子供のわたしが泣いている。  また、ひまわりの前で泣いている。  子供の涙は好きではなかった。  感情が直接心に響くから、問答無用に悲しい気持ちになる。  しかも、わたし自身の涙ともなれば、その涙の原因を痛いくらいに理解出来るから……。  子供のわたしは縁側に腰掛けて、黒い喪服に身を包んでいた。  それだけで少し大人っぽくてきれいだったけれど、泣いてる子供におもちゃを渡せばいいと信じている、大人の偶像のようにも見えた。  本当に欲しいのはぬいぐるみの温かさではなく、人のぬくもり。  お母さんの葬式の後だ。  泣き続ける幼子に誰も構ってくれないような、そんな悲しい夏のお弔い。  本当に誰も、わたしには構ってはくれなかった。  彼女が泣いている側で、耳に付くのは、お父さんが描いた絵の話ばかり。  どうして人は、赤ん坊のときほど涙に違いに気付いてやれないのだろう?  「やさしさって減るものなのかなぁ……」  彼女はずっと泣いているように見えるけれど、時折振り返って理性的に何かを探すような仕草を見せる。  あぁ。  すごくお腹が空いていたことを思いだす。  子供心に、このまま餓死するんじゃないかって可笑しいけど、その頃は真剣に考えていた。  わたしは苦笑いを浮かべて、虫取り網の王子さまが現れるのを待っていた……。  ・  ・  ・  ・  ・  『おっ……あかあさん……』  寂しくて、怖くて、悲しいから名前を呼ぶ。  名前を呼んでもいないことくらいは理解出来る。  そんな残酷な現実。  お腹は空いてたし、黒い服は暑かった。  学校のプールに泳ぎに行きたかったけど、水着の場所が分からなかった。  『いいもん……』  そう。いつもヒトリだった。  だからいいもん。  縁側に寝ころんで、このままお腹が空いて死ぬのを待とうと思った。  ――ぐぅ~……  『うぅ……』  やっぱり駄目だった。  目をこすながら起きあがる。  障子の向こうには人の気配があったけれど、お父さんがいるから行きたくなかった。  『お腹空いた……』  鼻をすすって、辺りを見渡す。  誰もいない。  誰もいないから泣かなくても良かった。  『……すっ……よし』  靴下のまま庭に降りて、ひまわりの前に立つ。  理科の時間にひまわりの種を食べたことがある。
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