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『うぅ……すん……ひっく……』
泣いている。
子供のわたしが泣いている。
また、ひまわりの前で泣いている。
子供の涙は好きではなかった。
感情が直接心に響くから、問答無用に悲しい気持ちになる。
しかも、わたし自身の涙ともなれば、その涙の原因を痛いくらいに理解出来るから……。
子供のわたしは縁側に腰掛けて、黒い喪服に身を包んでいた。
それだけで少し大人っぽくてきれいだったけれど、泣いてる子供におもちゃを渡せばいいと信じている、大人の偶像のようにも見えた。
本当に欲しいのはぬいぐるみの温かさではなく、人のぬくもり。
お母さんの葬式の後だ。
泣き続ける幼子に誰も構ってくれないような、そんな悲しい夏のお弔い。
本当に誰も、わたしには構ってはくれなかった。
彼女が泣いている側で、耳に付くのは、お父さんが描いた絵の話ばかり。
どうして人は、赤ん坊のときほど涙に違いに気付いてやれないのだろう?
「やさしさって減るものなのかなぁ……」
彼女はずっと泣いているように見えるけれど、時折振り返って理性的に何かを探すような仕草を見せる。
あぁ。
すごくお腹が空いていたことを思いだす。
子供心に、このまま餓死するんじゃないかって可笑しいけど、その頃は真剣に考えていた。
わたしは苦笑いを浮かべて、虫取り網の王子さまが現れるのを待っていた……。
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『おっ……あかあさん……』
寂しくて、怖くて、悲しいから名前を呼ぶ。
名前を呼んでもいないことくらいは理解出来る。
そんな残酷な現実。
お腹は空いてたし、黒い服は暑かった。
学校のプールに泳ぎに行きたかったけど、水着の場所が分からなかった。
『いいもん……』
そう。いつもヒトリだった。
だからいいもん。
縁側に寝ころんで、このままお腹が空いて死ぬのを待とうと思った。
――ぐぅ~……
『うぅ……』
やっぱり駄目だった。
目をこすながら起きあがる。
障子の向こうには人の気配があったけれど、お父さんがいるから行きたくなかった。
『お腹空いた……』
鼻をすすって、辺りを見渡す。
誰もいない。
誰もいないから泣かなくても良かった。
『……すっ……よし』
靴下のまま庭に降りて、ひまわりの前に立つ。
理科の時間にひまわりの種を食べたことがある。
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