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どないフォローせいっちゅうねん。
「あのねぇ、わたしがご飯作らないと食事も出来ないの?」
「いや」
そこでも首を振る。
会話も続かない。
わたしはコーヒーをすすりながら、所在なげに窓の外を眺めた。
外の空気のほうがよほどきれいなのに。
とりとめのない考えに惚けてると、傾けたカップから液体が流れてこなかった。
「……ねぇ、明日、お墓参り行こうか?」
「墓参り?」
ガラスに映った道夫が、絵を見たまま呟く。
直也くんとの約束を忘れてはいないけれど、わたしはカップを握る手に力を込めた。
道夫は、まだ半分以上残っているうす茶色の湖面に視線を落とす。
「いや、いい」
返事はせず、わたしはカップを流しに置いた。
泣きそうだろうか。
そうでもない。
自分の感情を分析してみる。
むしろ、安心している気もした。
戸口に立って、わたしはノブに手をかける。
ちらりと見ると、道夫は背を向けている。
開けて、閉める。
もわっ、とした熱気が流れ込んで、髪を揺らした。
わたしは、まだ室内にいた。
「お父さん……」
道夫がゆっくりとした動作で振り向く。
「どうしたんだ一体」
驚いてないこともないだろうが、感情が国営放送のようにコントロールされていて、何を考えているのか分からない。
「わたし、直也くんと付き合ってるの」
薄く微笑んだ。
直也くんのこと話すのに、コーヒーを言い訳にしたのか。
彼にコーヒーを淹れるのに、直也くんを言い訳にしたのかよく分からない。
よく分からない。
そんなこと考えている自分が、一番分からない。
道夫は煙草に火をつける。
「何を今更言ってるんだ?」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
負けを悟られる前に、わたしは眠ることにした。
たっぷりと10分は経っただろうか。
駅前の公衆電話で妹に電話して、言いづてを残す。
妹はその内容に疑問を投げかけることなく、先輩から差し入れがあったことだけを教えてくれた。
それから僕は道を引き返した。
「おや?」
先生は、カップを手に椅子に座っていた。
僕は戸を閉めて、そこに寄りかかる。
窓と、奥の扉。
そこにさりげなく目を走らせて、距離を歩数で割り出す。
「あの子なら寝てしまったよ」
「……ええ」
頷く。
無駄な会話はない。
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