第3話 別れと出会い

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 どないフォローせいっちゅうねん。  「あのねぇ、わたしがご飯作らないと食事も出来ないの?」  「いや」  そこでも首を振る。  会話も続かない。  わたしはコーヒーをすすりながら、所在なげに窓の外を眺めた。  外の空気のほうがよほどきれいなのに。  とりとめのない考えに惚けてると、傾けたカップから液体が流れてこなかった。  「……ねぇ、明日、お墓参り行こうか?」  「墓参り?」  ガラスに映った道夫が、絵を見たまま呟く。  直也くんとの約束を忘れてはいないけれど、わたしはカップを握る手に力を込めた。  道夫は、まだ半分以上残っているうす茶色の湖面に視線を落とす。  「いや、いい」  返事はせず、わたしはカップを流しに置いた。  泣きそうだろうか。  そうでもない。  自分の感情を分析してみる。  むしろ、安心している気もした。  戸口に立って、わたしはノブに手をかける。  ちらりと見ると、道夫は背を向けている。  開けて、閉める。  もわっ、とした熱気が流れ込んで、髪を揺らした。  わたしは、まだ室内にいた。  「お父さん……」  道夫がゆっくりとした動作で振り向く。  「どうしたんだ一体」  驚いてないこともないだろうが、感情が国営放送のようにコントロールされていて、何を考えているのか分からない。  「わたし、直也くんと付き合ってるの」  薄く微笑んだ。  直也くんのこと話すのに、コーヒーを言い訳にしたのか。  彼にコーヒーを淹れるのに、直也くんを言い訳にしたのかよく分からない。  よく分からない。  そんなこと考えている自分が、一番分からない。  道夫は煙草に火をつける。  「何を今更言ってるんだ?」  「おやすみなさい」  「おやすみ」  負けを悟られる前に、わたしは眠ることにした。    たっぷりと10分は経っただろうか。  駅前の公衆電話で妹に電話して、言いづてを残す。  妹はその内容に疑問を投げかけることなく、先輩から差し入れがあったことだけを教えてくれた。  それから僕は道を引き返した。    「おや?」  先生は、カップを手に椅子に座っていた。  僕は戸を閉めて、そこに寄りかかる。  窓と、奥の扉。  そこにさりげなく目を走らせて、距離を歩数で割り出す。  「あの子なら寝てしまったよ」  「……ええ」  頷く。  無駄な会話はない。
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