第3話 別れと出会い

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 お互いに似た人種なのだから、何も隠すことはない。  「あなたに用があります」  道夫がゆっくりと立ち上がる。  背が高いので見下ろされる形になった。  「あれに言われたのか?」  「いいえ」  お互いの距離は5歩ほど離れていて、一挙動での接近は難しい。  「自分の意志で」  僕は1歩だけ前にでる。  「少し大人の顔になったかな……」  先輩の絵を描こうとしていますね?」  それは疑問ではなく確認だった。  先生はサングラスに手を当てて、頷く。  「……彼女の外見が、母親と同じになるまで待っていたんですか?」  「それは違う。血が繋がっていようとも、他人は他人だ」  隙だらけで、まるで誘っているように彼は力なく立ちつくしている。  クーラーが効きすぎている室内で、汗が噴きだしそうになるのを、必死に意志で抑える。  「君も他人だ」  声は無視して、ちらり、とキャンバスに目を向ける。  木炭でざっと書かれたそれは、僕が描いた先輩の絵にそっくりだった。  「わたしがみくを殺すとでも思っているのか?」  やけに近くで声が聞こえて、慌てて後ろの下がる。  自分でも派手な動きだとは思ったが、道夫は元の位置で、ポケットに手をさしこんで立っていた。  「何気ない立ち方でも、足に力を入れていると、そうやってすぐに動ける」  「……覚悟はできてると?」  僕は袖からナイフを落とし、空中で掴んだ。  「死ぬ覚悟の出来ていない生物は人間だけだよ」  「無意味な殺人や、自ら命を落とすのも人間だけです」  「その意志は崇高か?」  「愚かですね」  「自覚しているなら帰りたまえ」  道夫はポケットから煙草をとりだす。  首をふる。  目前の男は、煙をはいて口元だけで笑う。  「あえて愚者になるか」  「……あなたと同じ位置に立っただけだ」  ナイフの柄に巻かれたハンカチが、汗を吸い取る。  「確かに……ただ、わたしは、殺人や自殺は、捕食とうい行為よりは人間らしいと思うよ。まぁ、真面目に死の考察をするほど酔狂でもないが」  講義でもするように、彼は僕との距離を変えず、平行に歩く。  「……殺意はありません」  「物は良いようだ」  「お願いに来たんです」  「脅迫の間違いだろう」  「訂正します」  (ただし)  胸中で呟く。  それは殺意の有無のほうだ――。  「君に妹さんだが――」  
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