0人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
部屋の壁中には、びっしりと、花にたかるアブラムシのように、腐肉に群がるウジ虫のように、絵と写真が張り付けられている。
そこに1枚のキャンバスが置いてあった。
「な……」
足がもつれた。
どうしようもない。
その写真と絵を見てしまえば、どうしようもない。
道夫が振り返るのが、分かったが、彼の目前で、のろのろと足が止まる。
絵は、僕の目を捕らえ、足を捕らえ、心を捕らえた。それだけの価値がある。
青葉道夫の絵がそこにある。
未完成だが――なんて、ことだ。
部屋から暖かい風が流れ込んできて、生臭い、強烈な血の匂いが鼻につく。
見れば、床にどす黒いシミが、幾つも広がっていた。
全てを悟った。
涙が出そうに――いや、気が付けば、涙が頬を伝っていた。
「さよならだ」
先生が、僕の前で頷いた。
手には銀色のナイフ。
僕は首をふった。
涙で視界が曇る。
プールの底で、たゆたいながら、太陽を見上げているように眩しい。
「先輩……」
その呟きだけが、耳に反響した。
最初のコメントを投稿しよう!