伝言

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 名前を呼ばれた気がした。  正確には『先輩』、と。  気がしただけ。  聞こえるのは鳥の声。  肉を切らせてフライドチキン。  骨を断たせてクリスピー。  それが彼等の合い言葉。  (わけ分からないわ……)  帽子がないので眩しくて、わたしは瞼を開けて視界を広げた。  昨日は、直也くんと買い物に行けるという興奮から、あまり眠れなかった。  正味8時間くらいだろうか。  少し寝たりない。  遠足や修学旅行でも、こんなに興奮したことはない。  そもそも、不必要な団体行動に、興奮した覚えがない。  (何時だろう……)  あいにく、太陽の位置で時間が分かるほど器用ではない。  それでも、お腹の空き具合からしてお昼近くだと言うことは分かる。  「遅い……」  ぎろ、と周囲を見渡すが、人の気配はない。  こちらとら朝から待っているのに、一向に直也くんが来た様子がない。  お腹の上においた、『起こしてね〔ハート〕』と書かれた紙もそのままだった。  寝起きの冷静な思考で見てしまうと、すごく恥ずかしいではないか。  「ふぅ……まぁ、彼のことだから、わたしが寝てるの見たら、起こすの止めようとか思うんだろうけど……」  紙を丸めてそのへんに捨てようかとも思ったが、ポケットにしまう。  わたしは自然にやさしいのだ。  本日の行動予定を思い起こす。  まず、駅前でジュースを買って電車に乗る。  隣町まで出て、その頃にはいい感じにお腹が空いているはずなので、一緒にご飯を食べる。  もちろん、普段めったに食べられないファーストフードを予定。  (直也くんのおごりで)  その後、麦わら帽子とズボンを購入して、やっぱりめったに見られない映画を鑑賞。  (もちろん恋愛物――しかもカップル割引で)  映画を見終るころにはいい感じになっているはずなので、ちょっと高そうなレストランで食事。  ワインとかで乾杯できたら最高。  (飲めないけど)  その後は、興味津々のラブホ――もとい、どこか人気のないところで愛を語らいたいものだ。  「凄い……カタカナだらけ……」  論点はずれしている気がしたが嬉しい。  村からあまり出たことのないわたしは、電車にだって数えるほどしか乗ったことがない。  よく考えれば、片手で数えられた。  まぁ、今までは誘ってくれるような友達もいなかったし、両親もあんなである。  
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