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だから、これからは2人で色々な
場所にでかけよう。
「そうだ、水着も買おう。
自分の名案に拍手をしたかった。
にこにこ。
試着して、直也くんに見てもらおう。
彼は、なんて言うのだろう?
いいね。
(ありがとう)
似合ってるね。
(嬉しい♪)
きれいだね。
(そんなことないよ~)
最高だね。
(これは嫌みであろう……)
いなせだね。
(理解不能)
女の子はドリーマー。
水泳選手はスイマー。
宝探しはトレジャー・ハンター。
そしてわたしは夢に落ちた。
・
・
・
・
・
―パキッ
枝を踏む音に目が覚めた。
眠りは浅かったのか、意識ははっきりしている。
また鳥かとも思ったが、等間隔の足音に人気を感じる。
寝た振り。
上手く調節しないと本当に寝てしまうのだが、今はドキドキする鼓動が聞こえるのではないかと、心配で顔がにやけそうになる。
瞼を焼き付けつ日光が遮られ、微かな人の息づかいが聞こえる。
さわさわと、風が吹いた。
潮の香りではなく、木々をぬける爽やかな風に髪が揺れる。
長い呼吸を意識して、身体の力を抜く。
キスをされたら、泣くかも知れない。
随分と涙腺が弱くなったものだ。
髪がなせでられる。
髪の間に櫛を通すように、やさしく指が抜けてゆく。
まるで感覚が備わったように、髪の毛の1本1本がその感覚を脳に訴えてくる。
こそばゆくて、笑ってしまいそうだった。
がまん、がまん……。
指はひとしきり髪をなで、前髪をわける。
と、おかしな匂いがした。
鉄臭い――血?
目を開けたくなったが、なにかがそれを止める。
血の匂いと、なにか、その手触りに違和感が立ちこめた。
指は、頬にかかった髪も払う。
「――ぅ」
背筋に悪寒が走った。
頬に触れた指は、あきらかに直也くんの物ではなかった。
目が開きそうになるが、どうにか堪える。
相手に動きがない以上、うめき声を寝言と勘違していることを祈るほうが良い。
長い。
永い。
息が乱れそうになるのを、必死に我慢する。
微かな溜息とともに、足音が去ってゆく。
声にならない息を吐く。
寝た振りが得意で良かった。
様子見で70回心音を数えて、うっすらと目を開けた。
遠くに見慣れた背中が映る。
身体が震えた。
あの男だ……。
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