第3話 別れと出会い

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 多分、大丈夫。  『よいしょ……』  背の高いのには届かなかったから、一番小さい花の種をほじくりだす。  形はアーモンドに見えなくもない。  匂いは鼻がつまって良く分からなかった。  『……大丈夫だよね?』  ガジリ、と噛む。  ガジガジ――ガキ!  『うぅ……固い……』  とてもではないが、歯が立たない。  『どうしてリスさんは、これが食べられるんだろう?』  なんだか無性に渋くて、また涙がでてきた。  『なに泣いてるんだ?』  唐突に、声が降りかかってくる。  鼻を鳴らして顔を上げた。  目の前のひまわりが、風もないのにゆらゆらと揺れている。  『……ひまわりが喋ってる』  『違う』  ゴン――と顔に衝撃が走る。  『痛ッ!』  突然とびだしてきた棒が、したたかに鼻を打つ。  その棒は、泣きっ面に虫取り網だった。  『あっ……当たっちゃった。ごめん、大丈夫か』  ひまわりの向こう。  家を囲む柵の隙間から目が覗いていた。  『うっ……うう』  『泣くなって』  虫取り網が動いて、わたしの頭をかきまわす。  頭をなでたかったのかも知れないが、なんだか魚臭くて嫌がらせでしかなかった。  と、わたしの頭にかぶさったまま、網の動きが止まる。  『……ぐすん……ん?』  自力で網をとって、隙間から外を覗く。  だれもいない。  ただ畑が広がっていた。  かかしが立っている。  『こっちこっち』  少し離れたところから、ひょっこりと手が出てきた。  『ちょっと隙間が広い』  男の子の声だ。  いじめられるかとも思ったが、大抵、逃げると後でもっといじめられるから大人しく近づいた。  言われたとおり、10センチほど開いた隙間の向こうで、麦わら帽子の男の子が眉をしかめていた。  『誰?』  虫取り網をわたして、首を傾げる。  『名前なんてきにするな』  わたしよりも背が小っちゃくて年下っぽいのに、その子は随分偉そうだった。  『……バカ』  『な、なによいきなり!』  面と向かっての開口一番がそれだった。  泣くのと怒るのを両立できない不器用なわたしは、とりあえず怒ることを優先させた。  『みんなひどいよ! わたしは、なんにも悪いことしてないのに!』  わたしが隙間に詰め寄ると、男の子は意外そうに首を傾ける。  
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