伝言

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 わたしは慌ててポケットを漁って、手持ちの物を全て地面に並べた。  ハンカチ。  ティッシュ。  携帯用裁縫セット。  あめ玉2つ。  きれいなビー玉。  ハモニカ。  子猫のテレホンカード。  櫛。  幸せ家族計画。  子供かわたしは……いや、最後に出てきた物品はかなり大人だが。  がっくり項垂れようとして、ふと気が付く。  「テレホンカード!」  修学旅行先で、絵柄が気に入っていたと言うだけで買ったので、すっかり用途を忘れていたが、これは小銭の代わりに電話をできる物だ。  確かそのはず。  このさい、穴が開くのはかまうまい。  わたしは慌てて電話に走った。  「えーと、直也くんの家の電話番――」  と、不思議なことに気が付く。  「あれ? カードいれる場所どこ?」  ない。  信じられない。  わたしは思わず、受話器を落としそうになった。  この際、落としても良かったかも知れない。  「……田舎のばか」  とぼとぼと元の場所にへたりこむ。  110番と、119番はただのくせに……。  溜息をついて、幾つか非合法にお金を手に入れる方法を考えてしまう。  「子供からかつあげ……」  ぼそっ、と嫌なことを呟いたところで、急に影がさした。  「ガレージ・セール?」  「え?」  見上げると、見たことのない青年が、わたしの広げた荷物を指さしていた。  ガレージ・セール?  「……車庫ならいりませんよ」  「違う違う」  彼は手をふる。  青年は少し考えて、  「のみの市? これ売ってるの?」  「え?」  わたしは暫くぼーっとして、慌てて頷いた。  そうだ、これを売ればいいのだ。  「はい! 全部10円です!」  「え?」  今度は青年が驚く。  「君も10円?」  「は?」  「……いや、なんでもない」  彼はなぜか頭をふって、じっと荷物を見つめる。  にこにこ。  わたしが見守る中、青年はあめ玉1つとビー玉を選んだ。  値段を考慮してくれたのか、本当にいい人だ。  「ありがとうございます!」  10円玉を2枚握りしめて、わたしは思わず涙ぐみながら、彼の手をとった。  不思議そうな顔で青年が立ち去るのを、わたしは彼の背中が見えなくなるまで見送った。  捨てる神あれば、拾う神ありである。  「車庫、売れることを祈ってます」  
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