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わたしが呟きに立ち上がろうとしたところで、また、誰かが目前に立った。
「見つけた!」
たかちゃんか、肩で息をしながら立っていた。
隠れん坊で、隠れる範囲を5km圏内と決めてしまったくらい慌てている。
「どうしたの?」
わたしは荷物をポケットに戻して立ち上がる。
「どうしたもこうしたもないわよ!」
彼女はわたしの肩を掴む。
「お……落ち着いて。ね?」
他人が慌てている姿を見ると、自分が凄く冷静になる。
「ほら、子猫のテレホンカードあげるから」
「いらないわよ! それに私は猫が嫌いなのよ! 昔ひっかかれたの! 顔をよ、乙女の顔を! それより落ち着いて聞きなさい!」
「おちつけたかちゃん……」
わたしはポンポンと肩を叩く。
荒く息をついでいたが、彼女も周囲の視線に気付く。
が、周囲の人達は、たかちゃんの眼光に全員が目を逸らした。
「はぁはぁ……ようやく冷静に話がきけるようね」
それはあんただ。
彼女は自動販売機でジュースを2本買ってくると、1本をつっけんどんにわたしに突き出し、自分のジュースを一気に飲み干した。
「ぷっはぁ!」
「おやじ臭い……」
「いいのよ、飲まなきゃらってられないわ」
本当におやじ臭いことを言って、彼女は深く息を吐き出す。
「……いい、本当に落ち着いて聞きなさい」
その真面目な物言いに、頷く。
順番に話すけど、わたしの兄貴、精神科の医者をしてるの。あ、兄貴は頭良くて独身だけど、だめよ二股は」
診てもらったと、ぼけようかと思ってしまう。
とりあえず先を促す。
「でね、最近病院に連れてこられた不良の精神状態が良くないって診察してたんだけど、その子が逃げ出しちゃったのよ」
「うん……」
繋がりがよく分からない。
たかちゃんは、ツインテールを怒らせる。
「その子が、殺してやる~、殺してやる~、ってずっと呟いてたの」
はぁ、物騒な人間が多い村だね」
「気付かないの!? それ、あなたのお父さんとせんぱいのことよ」
「……え?」
たかちゃんに肩を揺すらされ、思いだす。
あの少年だ。
あの男に倒され、直也くんにやれれた子。
「で、でも手と足が折れてるって……」
「足は捻挫! それで、慌ててその子の家を調べたら、包丁が1本なくなってたの!」
「――まさか!」
「そのまさか」
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