伝言

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 わたしの驚きを、彼女は肯定する。  「病院は、その事をもみ消したいらしくて、警察には言ってないの」  「そんなことって!」  「……できるのよ、こういう村だからこそ」  彼女も憎々しげに呟く。  そうか。  あの男は、どこかの良家の息子なのだ。  警察の人間も、すでに事情は知っているのだろう。  しっていて見逃そうとしているのだ。  「いい、あなた達は大人しく家にいなさい! それとせんぱいはどこなの!?」  「……たかちゃん、村の北側さがして」  「え?」  今度は彼女は呆ける。  「直也くんもう行方不明なの! いいから早く!」  わたしは強い口調で言い放つ。  最悪の可能性の幅が広がってしまった。  彼女は何か言おうとしたが、うん、と頷いてくれた。  「……あなたも無理しないで、分かった?」  「分からない」  「む!」  お互いににらみ合うが、彼女はすぐに笑った。  「よし、仕方ない。惚れたら負けだ」  わたしも微笑み、彼女の肩を押す。  「まかせて」  本当に可愛く、彼女はウインクする。  よし――。    憎っき公衆電話の前に立つ。  なぜか笑みがこぼれる。  それだけ。  わたしは落ち着いて硬貨を落とし、暗記していて、なのに一度もかけたことのない番号にかけた。  (お願い……早く出て……)  周囲に目を配りながら、受話器を握り締める。  ――ガチャン  硬貨の飲まれる音に、喝采を上げたくなるのを堪える。  『はい。三上です……』  鈴を転がすような、楚々とした女の子の声が、受話器から流れでる。  「あ、あの、直也くん居ますか!?」  緊張感を吹き飛ばすような、あまりにも穏やかで可憐な声に、同性ながら上がってしまう。  『兄、ですか……いえ、申し訳ありませんが、あいにく外出中でして……ご伝言をお承りいたしましょうか?』  必要以上にゆったりとした上品な声に、また叫びたくなる。  もう少し早く喋れないか? と言いたかったが、相手は将来の義妹である。  顔をひつらせて、無理矢理笑顔を作った。  「あの、わたし青葉みくと言いますが――」  『あぁ』  突然、相づちが入る。  『お噂はかねがね兄から聞いております。えぇ、それはもう色々と……』  なぜか、言葉に棘があるように思えた。  色々な噂も聞きたかったが、用件が先だ。  
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