伝言

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 「あの、それで直也くんはどこに……」  『それは……わたくしが聞きたいですよ。 昨夜、なにから電話がありまして、今日はかえれないかもしれないけど、心配ないって……。 あなたのところだはなかったのですか?』  「……昨日から、帰ってない?」  わたしは頭を振って、嫌な想像を打ち消した。  「じゃあ、伝言をお願いします。えーと……」  どこかで待つ合わせなくてはいけない。  下手な場所はまずい。  それに、妹さんに場所がばれるのも危険だ。  2人だけの場所……。  ……あそこだ。  わたしは深呼吸して、  「……ひまわりの前で待ってるって」  『は? ひまわりの前?』  2人の思い出の場所だから……」  受話器の向こうから、息を飲む音が聞こえた。  『ちょっと! ただでさえ兄様との間柄に頭にきてるのに、なに意味深なこと――!』  プッ――ッ――ッ――……  上手いタイミングで硬貨が切れた。  「……お兄様?」  それこそ意味深な台詞に耳を傾げながら、わたしは受話器を置いた。  後は、待つしかない。  とことこ、と歩きながら、わたしはもう一度だけ首を傾げた。  「本当に連絡してくれるかしら?」    強い風の中に、わたしは立っていた。  遠くにはかもめが飛んでいて、ここだけは世界から切り離されたみたいに穏やかだった。  見晴らしがいい。  わたしは、ゆるやかな起伏を頼りに、あのひまわり畑に向かっていた。  「直也くん……大丈夫だよね」  彼が死ぬわけない。  どんな時だって、彼は仏頂面でなんでもこなしてきた。  彼はトランプのエース。  そうは思いつつも、道夫との対峙を想像すると、そんな安心は脆くも崩れ去る。  直也くんは確かに最強だが、ジョーカーの存在は覆せる物ではないのも事実だ。  血の匂いを放つマッドピエロ。  「お母さんの命日は、今日」  毎日鏡を見るたびに、わたしの姿は、母親に似てきている。  それがとても怖くて、でも、嬉しかった。  遠い日にわすれていた思い出をとりにいくように、記録を記憶にしたかった。  (人?)  見下ろすひまわり畑に、先客がいた。  遠目にも男性ではないので、少し安心する。  ……あまり人には会いたくなかった。  けれそ、人恋しい気持ちもある。  そんな風にまごついているうちに、相手の方がこちらにくづいた。  「こんにちは」  
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