伝言

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 「あ……どうも」  意外にフレンドリーな声色に、とりあえず歩み寄る。  背の高い人。  それに美人。  モデルでもやっているのかしら……。  「強い花ですね……」  「え?」  彼女はわたしに微笑みかけると、短い髪をかきあげてひまわりを見つめた。  強い?  そんな風にひまわりを形容した人は、はじめてだった。  「わたしは、嫌いです……」  「そうですか? でも、この花を見る度に生きてるって感じがするでしょ」  「生きてる?」  わたしもひまわりを見上げた。  風に揺れて、太陽の花はザワザワと自然のリズムを奏でる。  まるでわたしを呼ぶように。  まるでわたしを誘うように。  生きてると言えば、そう、生きている。  「ここは昔、一面のひまわり畑だと思ったんですけれど……今はこれだけでも見つけるのに苦労しましたよ」  遠い目で、女性は辺りを見渡した。  鳥と空と雲と、穏やかな大気で彼女の周りは満たされていた。  「ええ……懐かしい……」  「あなたが抜いたんですって?」  「え?」  驚いて見上げると、女性は笑っていたが、その目は恐ろしく真剣にわたしを見ていた。  怖いけれど、吸い込まれそうなくらい、きれい。  彼女はひまわりの葉に手を当て、目を細めた。  「どこで……その話を……」  「花に聞いたの。昔、あなたが彼等の仲間を殺したんだってね……」  夏なのに、どこか薄ら寒い風が肌をなでる。  髪がなびいて、視界を遮った。  「……母親の死が痛くて、ひまわりを見るのが嫌で、一夏かけて抜いてまわった……」  「わたし、は……」  わたしはなんなのだ?  彼女は、そんな嫌な記憶を、どこできいたのだ?  ひまわりが、語る?  確かに、わたしはひまわりを抜いてまわった。  汗だくになりながら、毎日、手を擦り傷だらけにしていた。  その年の夏休みは宿題もせず、わたしの気持ちも知らない先生に怒られた。  「だからわたしは、勉強が嫌いなんじゃなくて、あの人が嫌いだった……」  わたしは女性を試すべく、情報を制限して声をかけた。  彼女は、えみすら浮かべて頷いた。  「とても頭のいい子……先生を見返すにしても、もう少しやりかたというモノがあると思う」  そう、そのために、わたしは1年のブランクを作ってしまったのだ。  「……あなた誰?」  意識の中で、女性は敵として認識された。
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