伝言

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 草原はとても静かだった。  蝉の声もなく。  虫の声もなく。  かもめもお家に帰ってしまった。  花の精さんも、戻っては来ない。  語りかけてくれるのは、背にしたひまわりだけだった。  結局、わたしを日射病から守ってくれたのも、この忌むべき花だ。  「……わたしが嫌いじゃないの?」  寄り添うと、彼等はやさしく首を振った。  「嫌だな……君たちのこと、好きになりそうだよ」  苦く笑って、実はもう、好きになっていることを隠したかった。  本当は、はじめから嫌いになんてなててなかったのだ。  好きなものを嫌いになるのって、なんて、難しいことなんだろう……。  「……お父さん」  自分で口にして、酷く驚いた。  なぜか、直也くんの名前が出てこなかった。  自分の肩を抱いて、寂しくて、おなかがすいて、ポケットの中からアメ玉を1つとりだして、口に含む。  ビー玉みたいに、世界を逆さまに映すアメ玉は、ラムネの記憶を呼び覚ます。  「お腹空かせてるだろうな」  もう何日も、お父さんにご飯を作ってないことに気付いた。  どうしても、昔の自分がちらついてしまう。  「電話……だけでも、してこよう……」  1枚だけ残った10円玉を握りしめて、わたしは、しびれた足でゆっくりと立ち上がった。    暗い。  今日は雲が多く、時折月が隠れてしまう。  とぼとぼと歩きながら、足下の不安定さと、隣に誰もいないことに不安になる。  以前はこんなに寂しいこともなかったのに、本当に、女の子になってしまったらしい。  人気を感じる場に出たが、それは逆に、自分から危険な場所に足を踏み入れていることになる。  どこかで音がするたびに、ビクビクと目をやってしまう。  自分の足音に誰かが合わせて歩いてるようで、何度もテンポを変えたり、振り返ったりもした。  そのたびに自分が情けなくなって、村の明かりが目に付いたときには、ただ歩くことだけに集中していた。  「はぁ……」  村の明るさに思わず安堵の息が漏れた。  まったくもって、情けない。  胸を張って帰る場所もないのに、結局ここに来てしまうのだ。  「とりあえず、財布だけでも取りに行かないと」  もしものために、普段よりも厚くなっている財布を思い浮かべる。  本当に、どこかホテルか民宿にでも泊まることになりそうだ。  と、公衆電話を見つけた。    
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