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やっぱりそれにもカードに挿入口はなく、古ぼけた外見で立っていた。
「10円だけか……」
指で弾いて、キャッチする。
どこにかけるか。思わず考えてしまう……。
「とりあえず、家は直接確認できるからね……」
誰にともなく言い訳する。
言い訳?
なんでそんなことを考えるのだろう?
それが不思議だったが、とりあえず、間違い電話をするのも怖いので、ダイヤルに集中することにした。
呼び出し音。
1。
2。
3。
――ガチャッ
『はい。三上です』
「はぁ~……』
『ちょと、いきなり溜息つかないで頂けます!こっちだって同じ気分なんですから!』
「……いや~、元気そうで安心しただけだよ」
なんとなくアハハと笑ってしまう。
それに、本当に微かながら、嫌々にも元気が出てきた。
『まったく……こちらの用件も終わってないのに、昼間はよく電話を切りましたね』
受話器越しの声が、すごくきれいな声で呟きを発する。
身震いするほど凛々しい。
ひどく、彼女の容姿が気になった。
それと、ラジオ体操の姿も……。
『……聞いてますの?』
「あ……いや、小銭がなくて。今の状況は同じだから、用件だけ話しましょう。あははは……』
なんで夜の商店街の真ん中で、わたしは愛想笑いしてなきゃいけないのだろう。
受話器を押さえて、笑いの語尾を、そのまま溜息にもっていく。
『ええ。わたくしとしても、こんな不愉快な電話を長く続ける気はありませんから』
むッ。
さすが直也くんの妹というか、こちらが時間の都合で反撃できないことを分かっている。
わたしは無言で続きを待った。
『嬉しいことに、まだ兄から連絡はありません。えぇ……これは自滅ですね』
電話の向こうで、小さな溜息が聞こえた。
やはり、直也くんの事が心配なのだろう。
「そっか……とりあえず、家の戸締りには注意してね」
『ちょっと待ちなさい!』
切ろうとした受話器から、大きな声が漏れる。
『ホント、あぁ、もう! どうしてこんなに無礼な人なの』
それを言えるあなたも無礼だよ……。
「どうしたの?」
『あっ、また切ろうとしましたね!』
「時間ないkらようけんだけ」
先ほどの逆襲とばかりに、少し微笑む。
『うっ……ええ……昨日の夜、兄からあなたにも伝言がありました』
「え?」
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