伝言

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 『切ったのはあなたですから……あぁ、もう……なんでこんなこと、わたくしの口から伝えなくてはいけないのよ……いいですか?』  少し涙声で、直也くんの妹は咳払いをした。  その最後の声に、少し胸がせつなくなる。  『もし、僕が約束を守れなかったら、まず、すみませんでした。そして……そしてぇ……!』  「ちょっと、面白いよ?」  『黙って聞いてなさいこのオテンコ娘!』  また地が出た。  しかしオテンコ?  直也くんから聞いたのかな?  『はいはい、言いますわよ……えーと。そしてぇ、僕はあなたのことを愛して――』  ――ガチャ  通話が、切れた。  しかし、その音はごく間近から聞こえた。  わたしは、受話器を落としそうになる。  肩口から伸びた手が、物理的にフックを落としたのだ。  正確には、その手が持つ包丁が……。  「見つけた……」  見つ、かった……。  包丁がフックから離れると、ッー、という、まるで心電図が止まったような音が耳に響いた。  そう思わずにはいられない。  下手に動かず、呼吸を整える。  「……今ならまだ、何もなかったことに出来るわ」  「へぇ、意外と落ち着いてるな。さすがは魔女」  耳元で、はじめて聞くこととなる声がした。  夏だというのに、全身に鳥肌がたった。  なんでもいいから叫びたかったが、相手を下手に刺激するのは得策ではない。  「あなたの家の人か、親戚の人かしらないけれど、本当に今回のことをなかったことにしてくれるの……今しかないのよ?」  理性を総動員して、声が震えないように注意する。  ゆらゆらと揺れていた包丁が、一度だけ動きを止めた。  「……それは、魅力的な提案だ」  「ええ、わたしもそう思う」  じゃあ、オレの提案も聞いてくれ。ずっと、病院のベットの上で考えてたんだ」  あぁ、それは、聞くまでもなく反対したかった。  「あんたを人質にして、あの2人を――」  「待って……もしかして、直也くんに会ってない?」  「? あぁ」  そうか。  少しだけ気が楽になった。  この状況の少しというのも微妙だが、今なら、走れる気がした。  「じゃあ、大人しく――」  会話の途中、そこを狙って逃げ出す。  が――、  「うっ!」  急に首が固定されて、それ以上動けなかった。  (髪の毛をつかまれてる!?)  
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