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『はぁ? 悪いことしてないって、お前だろう、オレの基地こわしたのは?』
『基地?』
ぜんぜん見当のつかない単語に、言葉につまる。
『ひまわり畑の中に作ってた秘密基地だ』
『ヒミツキチ?』
『軽々しく秘密をしゃべるな』
虫取り網で頭を叩かれた。
痛かったが、ただ、ようやく男の子の言わんとすることが分かった。
お母さんから生えていつひまわり畑。
その光景がとても嫌いで、わたしはここ数日、日が暮れるまでひまわりを抜いていたのだ。
その作業に男の子に秘密基地が巻き込まれたのだろう。
よく思いだせば、ゴミみたいな物が積まれていた一角があった気がする。
『だって……だってだってだって、お母さんが死んじゃったから!』
『泣きやめ』
『うぅうぅ、無理だよ~』
怒りが収まってくると、また涙があふれてきた。
『仕方ないなぁ……』
男の子が天をあおぐ。
『……よし、とっておきをやろう』
男の子はごそごそとポケットを漁る。
なにが出てくるのかと見ていると、いくつかのアメ玉と、1枚に紙切れが出てきて、わたしの手に握らされた。
『……賄賂?』
『発言がフオントウな奴だな……』
いまいち、男の子の言葉は難しくて理解しづらかった。
わたしは背が高かったけど、上目遣いに男の子を見た。
『知らない人から物をもらうなって――』
『オレもいわれてる』
男の子はあいかわらずの仏頂面だ。
意外にも、何を考えてるのか分からない。
相手が何を考えているのか分からないことが、なぜか新鮮だった。
お父さんと同じだけど、どこか違う。
『いいから食べろ』
『でも……』
『悪いと思ってるなら食べろ』
問答無用の物言いに、わたしは溜息をついて、アメを口に放り込んだ。
シャワシャワ、とラムネの味が広がる。
あまりお腹はふくれないけど、甘くて美味しい。
歯にあたる音が子気味よい。
男の子はわたしの様子を見ると、自分もアメを食べ出した。
しばらく無言のままアメだけを食べた。
ころころ、ころころ。
ふと、涙が枯れていることに気付く。
『あの……なんなのこのアメ?』
『当たってた?』
『あ、当たり付きなんだ。ちょっと待って』
『えーと……はずれ』
『あー、くそっ!』
あまり悔しそうにじゃない顔で、悔しそうに男の子はぶつぶつ呟く。
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