第3話 別れと出会い

6/26

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
 慌てて、うんしょとかぶり直した。  『あー……僕にも妹がいるから分かるけど、お葬式はつまらない』  男の子はビーチサンダルに視線を落とす。  妹さんはあまり関係ない気がするけど、うん、と頷いた。  男の子はチラリとわたしを見て、また視線を逸らす。  『あの――』  わたしの言葉はそこで切れた。  遊びたい。  お話したい。  友達になって欲しい。  それだけなんだけれど、わたしには彼を誘うようなきっかけがなかった。  『あの? なに?』  男の子は腕を組んで待っている。  『あの! ……えーと!?』  なんだか怒っているみたいで、余計に焦った。  でも、また涙がでそうだった。  クシャ、と手にした紙を潰しそうになる。  (そうだ……)  わたしと彼には糸がある。  ニコリと笑った。  『いっしょに絵を描きに行こう!』  『は?』  はじめて、男の子は表情を変える。  その目を丸くしている顔が面白くて、男の子が実はとても面白い子なんだな、って思った。  ニコニコとビックリの真ん中で。  ひまわりだけが、夏の日差しに揺れていた。  ・  ・  ・  ・  ・  目が覚める……。  多分……。  後5分くらいで……。  ・  ・  ・  ・  ・  眩しい。  「……おはようございます」  身体の上で寝ている小鳥に、わたしは挨拶する。  小さく波打つ胸の上で、小鳥は静かに揺れていた。  森の匂い。  風の強い日だ。  さーっ、と木々が枝を打ち鳴らす。  それを合図に、ちちち、と鳥の声がして、たくさんの影が空に散った。  「ねぼすけさん。ほら、おいてかれちゃうぞ……」  指の先でくちばしをつついてやると、その子はびっくりして辺りを見渡し、せわしなく首を傾けると大空に飛んでいった。  「……あはは」  「そうだよ。わたしと一緒になんかいて、仲間とはぐれちゃだめだよ……」  うーん、と背伸びをして深呼吸する。  「今日も良い日だね」    「さて、この物語を終える、長い長い48時間がはじまり、物語の語り手は、わたし――青葉みくへと移ります。それは……本来の語り手である直也くんが、この物語の結末を見ることが出来なかったから……。今、今この文章を書いている手も震えている。ぎこちなくて、汚い字が暗号みたいに並んでいる。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加