第3話 別れと出会い

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 猫柄。  秘密基地。  猫柄。  ぽんぽん、とポケットを叩いて持ち物を確認する。  今日は、ある遠大な作戦を遂行しなくてはならない。  「うふふふ……」  その結果が、今から楽しみであります隊長。  「行ってきまーす!」  誰もいない教室にわたしは元気良く挨拶した。    今日も暑い。  じりじりと、帽子のひさし越しに強い日差しを感じる。  「あっ!?」  「うん?」  不思議に敵対むきだしの声に振り返ると、いつかのちっちゃい女の子がいた。  「……」  「なによ!?」  「はよはよ~」  へらっ、と手を振る。  「なんで挨拶するのよ!」  「なんでって普通だよ」  「普通だけど嫌なのよ!」  彼女はビーチサンダルで、ベタンベタン地団太を踏んでいる。  とても汗をかいていて、元気だなぁ。  辺りを見渡して、誰もいないことを確かめる。  「今日は直也くんならいないよ?」  「ち、ち、違うわよ、買い物よ買い物!」  かごを突き出して少女は声を荒げた。  でも、期待はしていたのだろう。  表情の動きとかじゃなくても、全身で感情が見て取れる。  「お手伝いかぁ。偉いねぇ」  「……なんか言い方が小学生に話かけてるみたいなんだけど?」  「気のせいだよぉ」  起き抜けで、舌がいまいちまわらない。  小学生じゃなかったんだね。  「そういえば自己紹介がまだだったかど、わたし青葉みく」  「……」  にこにこ。  「嫌よ……言わないわよ」  「キスした仲じゃない」  「してないわよ!」  じんじん、と耳が痛くなるような声量で女の子が叫ぶ。  「坂嶺貴恵よ」  へぇ、良い名前ね」  「みくに比べたら地味よ。月とすっぽん」  「そんなことないよ、可愛い。たかちゃんって呼んでいい?」  「べ、別にいいけど……」  蓮っ葉な感じで、髪の毛の先端をいじくりながら、女の子は照れたように天を仰ぐ。  その様子が微笑ましい。  わたしは村の西と、駅の方の道を眺めて、  「どっち行く?」  「駅」  「じゃあ一緒」  「……なにが言いたいの?」  ジト目でたかちゃんがうめく。  わたしはニコニコと歩き出した。  すぐに、たかちゃんが隣に並ぶ。  わたしは首を傾げて笑う。  「……言っとくけど、ただ帰り道が一緒なだけですからね」  「うん」  「それと、先輩のこと諦めていませんから」  
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