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ドキッとするほど強い口調だった。
ただ、そう聞こえただけかも知れないけれど。
「あ、ああ、そうなんだ」
「? なに?」
「なんでもない」
帽子をかぶりなおして、息を吸う。
色々なことを考えたけれど、なにかを好きになるのって、誰も止める権利はないと思う。
ふと、気になることがあった。
「直也くんのどこが好きなの?」
「な、なによ、やぶからぼうに」
「えへへへ」
わたしの見てる直也くんと、たかちゃんが見てる直也くんて違うのかな。
たかちゃんは、それこそ顔を真っ赤にして、頬をかく。
「あのね、先輩覚えてなかったみたいだけど、私が美術の宿題の絵を神社の裏山で描いてときに、話かけてきたの」
わたしは黙って聞いていた。
「ほら、私空手部に入ってるような体育会系でね、絵心なんてないからさ、人様に見られると思うと、どうしようもなく恥ずかしくて嫌々やってたの。そしたら……」
歩きながら、すっ、と彼女が指を山に向ける。
「あの山、そう見える?って急に影がさしたの」
「うん」
山は、深い緑に萌えていて、緩やかな稜線を描き村を飲み込んでいる。
「その時、先輩も同じような絵を描いていて、すごく上手くて自分の絵を見られるのが恥ずかしくかったんだけど、先輩、急に消しゴムをとりだして山を描き直し始めたの――それだけだったんだけど、その横顔がかっこよくてね」
ふぅ、と息をついで彼女は目を遠くにやる。
「くすくす……いつもの仏頂面でしょ」
たかちゃんは一瞬目を大きくして、にっこりと、本当に可愛く微笑む。
「え、うん。そうだね。その時はそれだけだったんだけど、一度知っちゃうと目についてね」
「お弁当が手作りだったり、友達の仕事手伝ったり、赤い羽根募金に千円寄付してたり……あぁ! なに似合わないこと語ってんの私!」
「えぇ」
「肯定しないでよ!」
「あははは」
人の心の中って、本当にきれい。
ぷっ、と女の子もはじけた。
2つの笑顔が空に溶けた。
「ほら、あんたも何か話なさいよ」
駅前まできて、彼女の肘がわたしをつつく。
「やだよ、恥ずかしい」
「ギブ・アンド・テイク。ただし惚気なし!」
「なにそれ?」
今度はわたしが目を丸くする。
彼女はニヤニヤと言葉を待っている。
「えっとね、あれはお母さ――」
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