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その日も、前身頃を丸くし、サイドベンツを切った、濃紺のダブルのスーツを着込んで行ったのだと思う。
約束の待ち合わせ場所は、駅のロータリーのバス停で、結構人の行き来も多い。
程なく、せつ子が声をかけて来た。
せつ子は、黒い長袖のワンピースにハイヒール。
長い黒髪に、今のアッキーナに似た、可愛いく綺麗な女性だった。
身長は、亡くなった母と同じくらいだったから、 147cmくらいか、痩せて見える体型だが、バストは豊かで、文字通りのミニグラマーであり、見掛けた時に、あの娘がせつ子だったら良いな、と、密かに願っていた女性だった。
俺達は、近くの喫茶店に入り、俺はコーヒーでせつ子はココアという、当時としては定番の飲み物を飲んだ。
長話のついでにサンドイッチで昼食を取り、それから、地方では有名な祭りが行われる神社と、その裏手の公園にバスで行き、ぶらぶらと散歩した。
せつ子は、その有名な祭りを見た事がなく、せつ子の知識を補足しながら、祭りの説明をしてやったのだ。
その後、夕暮れまで公園を散歩して、夕闇の中で、せつ子に訊いた。
古い話しだから、やり取りは電話か手紙。
家庭に電話の在る家も、まだ半分も無かった。だから、直接訊いたのだ。
『俺とこれからも付き合ってくれるかな?』
小柄なせつ子の肩に手を置き、覗き込むように真正面から瞳を見つめ、言った。
『私なんかで良いの……私はチビだし、釣り合わないかも知れないよ。』
『良いんだよ。俺はせつ子に惚れてしまったみたいだからね。』
『……本当に……。』
その言葉と同時に、羞かしげに、少しうつむこうとするせつ子の顔を、俺は軽く顎に指をかけ、少し強引に上を向かせると、素早くキスをした。
せつ子は、一瞬驚いたみたいだが、長いキスを続ける内に、舌を絡めて応えてくるようになった。
余り人も通らない公園の中、少し歩き始めた2人だったが、一旦燃え上がった炎は納まらない。
ベンチを見付けたら、どちらともなく腰掛けると、キスをしながら話し、話しながらキスをする。
そんな時間が続いた。
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