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「おーい、ウサコ」
ウサコと呼ばれた少女の背後から一人の青年が現れた。
整った顔立ちに鋭い紫の瞳、金茶の髪からは尖った耳、そして長いフサフサのしっぽ。
彼は、狼の獣人。『炎』の力を受け継いだ守護役だ。
その背には父の形見の剣を担ぎ、腰には鉤爪をぶら下げている。彼は色んな武器の扱いに長けていて、特に得意としているのは鉤爪を使った接近戦だ。
「あっ、ガルイン。見回りお疲れさま」
ウサコは森の見回りをしていたガルインに労いの言葉をかける。
ガルインは軽く手をあげて応えると、ずかずかとウサコに近寄りすぐ横に腰を降ろした。
そして、直ぐ様にごろりと横になってウサコの膝の上に頭を乗せる。
「おー疲れた!カガスとラスタがケンカしてたから止めてきたぜ」
腕を天に伸ばして疲れたと言ってはいるが、その顔は何処か楽しげだ。
ウサコは呆れ気味にため息をつく。
「ガルインも一緒になって暴れてきただけじゃないの?」
「まー…いい運動にはなったな」
悪びれる様子もなくガルインは笑った。
守護役と言っても、この世界樹の森は比較的平穏な場所だ。
彼のような血気盛んな若者は力を持て余して何処かで発散したいらしい。
「まったく、もう…」
「それより、腹減った」
ウサコの説教が始まるのを遮るようにガルインは空腹を訴える。
こんなやり取りもいつものこと。幼なじみで長い付き合いだ。ウサコは説教を諦め、もう陽が真上に来ているのを見た。
「…そうね。もうお昼だし。何か昼食でも準備するわ。他の見回りしてる二人にも用意しなくちゃ。ガルインは何が食べたい?」
何気なく聞いたことにガルインは―
「ウサコが食べたい」
と、即答。
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