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やがて、陣の車がゆったりと動き出す。
行き先も訊かず、雑談混じりで男の車の助手席。
見た目だけならただのカップルだな。
前髪を下ろし、眼鏡の陣の横顔をちらりと見る。
いかにも学生な彼に、ようやく安心出来た。
変なの。
女は普通、大人っぽい男に惹かれるもんでしょ。
黒服の、水商売の世界が似合う色っぽい陣をしっかり見ているのに。
少年っぽさの残る今の彼の方がいいだなんて。
ていうか、あたしのこの警戒心の薄さと、情緒不安定な感じは一体何なんだろう。
落ち着き払った、いつもの滝沢留衣はどこ行った。
黙ったままのあたしに、ハンドルを切りながら陣は息をつく。
「姫、男いるの?」
「え?」
「いや。そんなの何も気にしないで、キスしちゃったから」
「ああ……そんなの気にする相手、いないから大丈夫だよ」
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