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すっかり支度を済ませたあたしがホールをウロウロしているのを見ながら、陣はふぅとひと息ついた。
「姫」
人差し指で、こっちへ来い、という仕種をされる。
無言で陣の方へ歩いて行くと、つい……と手を取られた。
「???」
「ハイ。こっち」
陣はピアノの傍のソファーまであたしを導くと、そのまま座らせた。
「な、何?」
「じっと見られると、何だか緊張するんだな。だから、そこにいて」
陣の真っ黒な裸眼の瞳が少し潤んで、はにかんだようにふっと緩んだ。
「ね、ねえ。仕事中はコンタクトなんだっけ?」
「うん。初めてしたけど、快適だねぇ」
「快適?」
「さっきラーメン食って来たんだけど、視界が曇らない!」
力みながらまたソファーの掃除を始めた陣に、ぷっと笑いが込み上げた。
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