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「腹が減っては何とやら、って言うじゃん? だから出る前にさ、何か食おうと思ったんだよなー」
「う、うん……」
陣の口調が、子どもが少し拗ねたような、のんびりとしたものになった。
相槌を打った以上、あたしはこの話に最後まで付き合う義務があるのでは?
「起きぬけはトーストって決めてんだ。アツアツのサクサク」
「うん」
「そしたら、食パンを落としたんだよね。何であれ、バター塗った方が下になるわけ? 俺の人生、いっつもそんなん」
何度も瞬きをして、キョトンとする。
すると、叔父貴が先に吹き出した。
「お前、食パンごときで人生悟るなよ。年寄りか」
「でも、パンと床、どっちも結構悲惨だと思いません? 泣きそうになりました」
心底がっかりした様子で肩を落とす陣に、あたしは思わず吹き出した。
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