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「それで、そのパンどうしたの？」
「勿体ないから、近所のチロにあげて来た」
「チロ？」
「豆柴。本当はチロルっていうんだけど、犬小屋の名前んとこ、【ル】が取れてなくなっててさ。だからチロ」
「残念な犬だな」
クスクスと笑いが漏れて、さっきの苛立ちが和らいだのが、自分でもよく判った。
そういえば、陣を初めて見た夜も、そうだったな。
一瞬で空気が変わるって言うか。
飛び抜けて華があるとか、そういうタイプじゃないのに。
不思議な男。
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